直接保険の解約を被用者は要求できるか

ドイツには企業年金(Betriebsrente)の1つとして直接保険(Direktversicherung)という生命保険型の年金がある。保険料は雇用主が任意負担することも、被用者の給与の一部を天引きの形で割り振ることもできる。受給権者(Bezugsberechtigter)は従業員であるものの、雇用主を通して加入することから、雇用主が保険契約者(Versicherungsnehmer)となる。では、当該被用者にはこの契約の解除を雇用主に請求する権利があるのだろうか。この問題を巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が4月の判決(訴訟番号:3 AZR 586/16)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。

裁判は自動車用樹脂部品メーカーの社員が同社を相手取って起こしたもの。同社員は2000年、保険会社Aと生命保険契約を締結した。翌01年、企業年金法(BetrAVG)で保障された権利に基づいて同契約を直接保険へと切り替えることを雇用主である部品メーカーに要求し、給与の一部(年2,000マルク=約1,000ユーロ)を保険料に充てることを取り決めた。

同社員は家計が厳しくなったことから、2013年1月10日付の文書で保険契約の解除をA社に通告した。保険契約は同社員でなく雇用主である樹脂部品メーカーとの間で結んだものであることから、A社は解約に同意するかどうかを同メーカーに確認。拒否回答を得たことから、同社員に対し解約できないことを通知した。

同社員はこれを不服として提訴した。

一審と二審はともに原告の訴えを棄却し、最終審のBAGも同様の判決を下した。判決理由でBAGの裁判官は、給与の一部を直接保険の保険料に充てることを定めた企業年金法の規定の趣旨は、被用者の老後の生活水準を保つことあると指摘。借金返済のために解約することはこの目的に合致しないとの判断を示した。

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