ロシアは夢の国

外国へ移住するロシア人は多いが、ロシアへ移住する外国人も多いことをご存じだろうか。特に、中央アジアの旧ソ連諸国の人々にとって、ロシアは成功のチャンスを秘めた「夢の国」だ。

25歳のキルギス人、アイダイ・カニベコヴァさんはモスクワで医学を勉強している。もともとは実習で訪れたドイツの大学に転校し卒業したかったが、これまでに取得した単位が全く認められないことが分かって、「第二希望」のモスクワ医大に来た。

キルギスではロシア語が公用語の一つで、大きな町では小学校からロシア語で授業が行われる。大学はすべてロシア語だ。このため、カニベコヴァさんはロシア人がネイティブと思うほど言葉が堪能。「ロシア人はモノをはっきり言う(カニベコヴァさん)」というような違いはあるものの、半年たった今ではすっかり生活に慣れた。

移住の動機について、「キルギスでは(可能性が限られていて)初めから人生の先が見えている」と語る彼女だが、それは中央アジアの貧しい国に暮らす人に共通の見方だ。旧ソ連諸国出身者は半年以内であればビザなしでロシアに滞在できるため、この規定を利用して入国する人は多く、昨年だけでも400万人に上った。多くがタジキスタンやキルギス、ウズベキスタンからで、モスクワ、サンクトペテルブルクなど大都市で働くのが目的だ。

これらの出稼ぎ労働者は、工事現場やファーストフードレストランで働いたり、タクシーを運転したりと、生産人口が年100万人減っているロシアの重要な労働力になっている。家族への送金は出身国の経済にとっても大きな意味があり、キルギスとタジキスタンでは国内総生産(GDP)の3分の1近くを占める。

ロシアにとって外国人労働者の受け入れが、労働力不足を補い、人口減少を緩和する有力な手段であることは確かだが、移民を労働市場での競争相手とみるロシア人も依然として多い。「『あふれかえる移民』に懸念がある」という人は18%、「移民を制限すべき」という人は3分の2に上る。

このような中、政府も将来の方針を決めかねているようだ。それは、外国人出稼ぎ労働者への税負担軽減制度を導入する一方で、当局での手続きが煩雑化するというような点に表れている。

ロシア国籍の取得も大変だ。タジキスタン出身のカラムショ・ママドナシモフさん(35)は2000年代半ば、大学で建築技術を修めた直後にモスクワへ来た。しかし、技能を生かした就職口はなく、まずはタクシー運転手や店員として生計を立てた。それでもあきらめずに就職活動を続けたかいがあって、建築の設計製図の仕事を得た。

数年勤めたが、労働契約が切れれば滞在許可もなくなるという不安定な身分だったため、09年、旧ソ連諸国民にロシア国籍を付与する政府のプログラムに応募した。毎年20万人が国籍を得られるが、応募に当たってママドナシモフさんはまず、タジキスタンに帰国することを余儀なくされた。

そして、めでたく妻ともどもロシア国籍の取得に成功した。しかし、まずは自動車でモスクワから3時間ほどのところにあるツベルに住まなければならなかった。その後、ようやくモスクワ郊外へ越すことができ、今では娘2人をモスクワの学校へ通わせている。

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