英政府は12日、欧州連合(EU)離脱交渉が不調に終わり、通商協定などがまとまらないまま2019年3月の離脱期限を迎えた場合のリスクに関する新たな文書を公表した。最悪のシナリオである「合意なき離脱」になった場合、北アイルランドへの電力供給に支障が出たり、英国と大陸欧州を結ぶ高速鉄道「ユーロスター」を運行できない事態に陥る可能性があると警告している。
英政府は8月以降、無秩序な離脱となった場合に備えた対策案を段階的に発表している。今回はその第3弾で、エネルギーや運輸分野など29項目の文書を公表した。
現在はアイルランド島全体で単一卸電力市場(SEM)が形成され、アイルランドと英領北アイルランドが電力を共同管理している。英国がEUから離脱すると単一市場の枠組みがなくなるため、北アイルランドへの安定的な電力供給を確保するには、アイルランドとの間で新たな取り決めを結ぶ必要がある。英政府は解決策を見出せないまま離脱を迎えた場合、「北アイルランドとアイルランド双方の消費者と企業に深刻な影響が及ぶ恐れがある」と警告。こうした事態を回避するため、数週間以内に電力供給に関する現行ルールを維持するための新たな枠組みを構築する必要があると強調した。
一方、無秩序な離脱となった場合、国境をまたぐ鉄道の運行にも支障が出る恐れがある。これまで英国の鉄道事業者は、自国の規制当局から交付された事業免許で大陸欧州でも列車を運行できたが、単一市場からの離脱に伴い、国外では免許の効力が失われる。ユーロスター社は英国の事業免許しか保有していないため、離脱までにフランスやベルギーなどと新たな取り決めを結ばないと運行できなくなる可能性がある。英政府は運行に支障が出ないよう、関係国との交渉を急ぐ方針を示している。