年次有給休暇は原則として年度末までに消化し、特別な事情がある場合も翌年3月末までに消化しなければならない。これは有給休暇法(BUrlG)7条に明記されたルールである。このルールに絡んだドイツの裁判2件(訴訟番号:C-619/16、C-684/16)で欧州連合(EU)司法裁判所(ECJ)が6日の判決で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は高級官吏の法律職に就く準備としてベルリン州で司法修習生として働いていたクロイツィーガー氏と、マックスプランク研究所に勤務していたシミズ氏がそれぞれ起こしたもの。
クロイツィーガー氏はベルリン州での修習期間中、有給休暇を完全には消化しなかった。このため修習期間の終了後に未消化分を現金に換算して支給するよう要求。同州がこれを拒否したことから行政裁判所に提訴した。
シミズ氏は退職の2カ月前、未消化の有給休暇をすべて消化するようマックスプランク研究所から要請された。それにもかかわらず完全消化せず、未消化分の現金換算支給を退職後に要求。これが拒否されたことから労働裁判所に提訴した。
ベルリン州とマックスプランク研究所はともに、ドイツ法に基づいて要求を拒否した。
ベルリン・ブランデンブルク高等行政裁判所と連邦行政裁判所(BAG)はドイツの法律がEU法に違反している可能性があると判断し、ECJの先行判決を仰いだ。
ECJは6日の判決で、雇用関係の終了前(ないし有給休暇の取得期限内)に被用者が有給休暇を申請しなかった場合は有給休暇の取得権ないし現金換算支給の請求権が自動的に失効するルールは原則的にEU法に違反すると言い渡した。
裁判官はその根拠として、被用者は雇用主に対して弱い立場に置かれていることを指摘。雇用主に対し権利を主張すると不利益を被る恐れがあると心配し権利の行使を控える可能性があるとの判断を示した。
一方、有給休暇を期限内に消化するよう雇用主が明確に促したにもかかわらず、被用者が自らの意思で取得しなかった場合については、有給休暇の取得権と現金換算支給の請求権が失われるとの判断を示した。そうした被用者の姿勢は働く者の安全と健康を守るというEU有給休暇ルールの目的に合致しないためだと説明している。
ベルリン・ブランデンブルク高等行政裁と連邦労裁はECJのこの判断を踏まえてそれぞれ判決を下すことになる。
■ ポイント
年次有給休暇を翌年4月以降でも取得できる権利が発生するのを防ぐために、雇用主は有給休暇の取得状況をチェックし、翌年3月末までに完全消化できない可能性がある被用者がいる場合は早い段階で期限内の完全消化を促す必要がある。