AIで世界トップへ、政府が戦略了承

2018年11月21日発行 No.1212号

ドイツ政府は14日から2日間、ポツダムのハッソ・プラットナー研究所で集中閣議を開き、経済省などが作成した人工知能(AI)戦略を了承した。米中に後れを取っているAIの分野で独・欧州を世界トップレベルに引き上げる狙いで、2025年までに総額30億ユーロを投資する。政府は民間も同程度の投資を行うと予想しており、官民の投資総額は60億ユーロに達する見通しだ。ペーター・アルトマイヤー経済相はAIの活用により国内総生産(GDP)を1.3%押し上げることができると期待感を表明した。

ドイツはAIの基礎研究分野で優れた業績を出しているものの、応用・実用化の面で後手に回っている。米IT大手はスタートアップ企業の買収などを通して有望な技術を積極的に買収。実用分野で世界をリードしている。

独イノベーション・技術研究所(IIT)が連邦経済省の委託で7月に作成した調査レポートによると、AIスタートアップの買収件数が最も多い企業は米グーグルで22件に上った。2位以下もアップル(14件)、マイクロソフト(10件)、フェースブック(7件)、セールスフォース(7件)と米IT大手が続いており、米企業が占める割合は72%に上る。独企業はSAPの3件が最高だった。

AIスタートアップの企業数をみても米国が2,594社に上るのに対し、ドイツは175社にとどまる。

また、中国は2030年までにAI分野で世界をリードする国になるという政策目標を掲げ、急速に力を伸ばしている。

政府の研究・技術革新諮問委員会(EFI)は今春、AIの投入分野でドイツが競争力を持つのは自動運転に限られると警鐘を鳴らした。自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース社長によると、その自動運転分野でも米企業は先行しており、同社はグーグル系の開発会社ウェイモより2年、遅れている。

政府はこうした現状を変えていくためにAI戦略を策定した。

研究分野の厚みを増すためにAIの教授ポストを最低100、新設するとともに、国内研究機関のネットワークを形成する。優秀な研究者の多くが国外に流出しているという現実があるため、研究環境や報酬面で優遇する考えだ。

産業界への研究成果の移転がスムーズに進む枠組みも作り上げていく。具体的には◇大学などからのスピンオフを促進するための予算を来年2倍に拡大する◇AI分野の技術・ノウハウを持たない中小企業向けにコンサルティングセンターや技術体験が可能な施設を開設する――計画。メルケル首相は高品質の代名詞である「メード・イン・ジャーマニー」がAI分野にも当てはまるようにしていきたいと抱負を述べた。

行政データを民間に開放

AIは利用方法を一歩間違うと、深刻な人権侵害を引き起こす恐れがある。政府はこの問題を踏まえ、人間の尊厳やプライバシーの保護など欧州の価値基準に基づいたAI利用を進める意向を表明した。AIがもたらすチャンスとリスクを社会全体で討議していきたいとしている。

ただ、AIの開発では利用できるデータが多ければ多いほど有利になる。中国が顔認識などの分野で急速に技術力を高めているのはこのためだ。米国も欧州に比べると個人データ保護規制が緩い。

独政府はデータ保護規制が強い独・欧州の企業が国際競争で不利な立場に立たされていることを踏まえ、行政機関が抱える莫大なデータを匿名化して民間企業が利用できるようにする方針が打ち出された。複数の企業によるデータの共同利用も促進していく考えだ。

産業界からはデータ利用の法的な許容範囲が不明確だとの声が出ている。独産業連盟(BDI)のイリス・プレーガー専務理事は「データ保護法の解釈と適用基準を統一することが緊急の課題だ」と政府に対応を促した。

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