独民間銀行最大手のドイツ銀行と同2位のコメルツ銀行は17日、合併協議を正式に開始すると発表した。政府の圧力を受けてこれまで行ってきた予備交渉を本交渉へと切り替える。両行とも合併するかどうかは未定だと強調しているものの、実現すると資産規模で国内ダントツ1位、欧州でも英HSBC、仏BNP パリバに次ぐ3位の銀行が誕生する。
ドイツ銀とコメ銀はリーマンショックに端を発する金融危機以降、業績が低迷。他国の大手金融機関に大きく水をあけられている。ドイツ銀はドイツ企業が国際展開するうえで必要不可欠の存在と目されていることから、政財界は同行の不振の長期化に危機感を抱いている。『ヴェルト』紙によると、政府は米トランプ政権の「米国第一」政策など欧米で強まる自国中心主義の傾向を受けて、国際的に強い展開力を持つ自国の金融機関をドイツが持つ必要性を痛切に感じるようになったという。
ドイツ銀のクリスティアン・ゼーヴィング頭取はこれまで、自行の再建に集中するとして、買収や合併には当面、取り組まない意向を表明。2月の時点でも「わが行には計画があり、それに取り組んでいる。それ以外について私は何も考えていない」と明言していた。
そのわずか1カ月半後に合併協議入りを決めたことについて同頭取は従業員宛ての文書で、ドイツ銀の「宿題」の処理がここ数カ月で進展したとしたうえで、独・欧州で進む銀行業界の再編に同行がどのように取り組んでいくかを検討することは義務だと強調。その一環としてコメ銀との合併を検討すると説明した。
ただ、その一方で、合併には経済的・技術的にデメリットを伴うことも多いとして、経済的に有意義でなければ合併しない意向も示した。
ドイツ銀の資産総額は昨年末時点で1兆3,480億ユーロに上った。コメ銀は同4,620億ユーロのため、合併すると1兆8,000億ユーロを超える。
政府は金融危機とドレスナー銀行の買収で財務基盤が弱体化したコメ銀に対し2008年から09年にかけて総額182億ユーロの資本注入を実施し、11年には株主割当増資にも応じた。ピーク時の出資比率は25%プラス1株に上った。現在は15.6%に低下しているものの、その時価は同株取得当時の51億ユーロから14億ユーロへと大幅に低下している。政府は同株売却の意向を以前から持っているものの、取得価格を下回る額で手放すと国の財政に大きな穴が開くことから、頭を悩ませている。一時は伊ウニクレディト、仏BNPパリバ、ソシエテ・ジェネラルに売却する方向で協議したものの、まとまらなかった。
ドイツ銀とコメ銀の合併に対しては労働組合が強く反発している。最大3万人の雇用喪失につながるとみているためで、サービス労組Verdiのヤン・ドゥシェック氏(ドイツ銀行監査役)は監査役会で反対の立場を取ることを明らかにした。
株主の間でも懐疑的な見方が強い。ある大株主の関係者はロイター通信に、「頭から反対はしないが、(合併の)意義とタイミングには強い疑念を持っている」と述べた。
政府の諮問機関である独占委員会のアッヒム・ヴァンバッハ委員長は地方紙『ライニッシェ・ポスト』に、大手銀行の清算は容易でなく、場合によっては国が救済しなければならないことは08年の金融危機の教訓だと指摘。ドイツ銀とコメ銀が合併すると金融システムはこれまで以上に大きなリスクを抱え込むことになると批判した。
両行は今後、資産査定(デューディリジェンス)、税制上の問題や合併する場合はどのような形で行うかなどの検討を弁護士事務所、投資銀行、監査法人を交えて行うことになる。合併協議に関与する監査法人の関係者が『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に明らかにしたところによると、資産査定の最初の結果は2~3週間後に出る見通しという。