玉ネギ差し押さえに軍隊出動~トルコ

トルコ料理と玉ネギは切っても切れない。朝食のいり卵、おっかっさんの味として知られるナスの冷製「坊さんが気絶した(Imam Bayildi)」、コフテ(ミートボール)、ファラフェル(豆コロッケ)、もちろんサラダにも、あらゆるところで登場する。

トルコ語では「パンと玉ネギで大きくなる」という言い回しが「貧しい環境で成長する」を意味する。そのトルコで玉ネギの値段が1年で4~5倍になったから大変だ。「通貨危機」の存在を否定するエルドアン大統領は、「犯人」を見つけるために軍隊を派遣した。

イスタンブール近郊のある倉庫で1,300トン、アンカラ近郊の倉庫でも1,000トン以上が「差し押さえ」られた。卸業者を「価格を吊り上げるために玉ネギを保管していた」罪に問うというが、反対派からは「来年の初夏まで新しい玉ネギが収穫できないのだから、今の時期はどの倉庫もいっぱい」と冷ややかな声が出ている。ツイッターでも「うちに玉ネギが3.5キロあるけど、7年半の懲役になるのかな」などのコメントが寄せられた。

さて、トルコのインフレ率が20%を超えているのは確かだが、よりにもよって玉ネギがこんなに高くなったのはなぜか。燃料高騰による輸送費増や一部卸業者の売り惜しみだけでは説明できない。理由の一つとして指摘されているのは、建設業と製造業に偏ったエルドアン大統領の経済政策だ。

トルコ国内総生産(GDP)に占める農業の割合は1970年代の36%からエルドアン政権が誕生した2002年に12%、昨年には6%まで縮小した。エルドアン政権の農業政策の失敗で農産物輸入への依存が強まったのも、通貨リラ安で青果が高騰することにつながった。玉ネギに限ると、2012年から17年までに耕作地面積が20%減っており、減産が要因の一つになっている可能性もある。

玉ネギの価格は現在、キロ当たり10リラ(211円)。法定最低賃金は1,603リラ(約3万3,900円)だ。東京の最低賃金(週40時間)はおよそ15万5,000円だから、玉ネギ1キロに1,000円弱払うのと同じ計算になる。他の物も値上がりする中、玉ネギに手が出ず「頭で味を加える」しかない人も増えた。一部の自治体では低所得者向けに玉ネギを無料で配り始めた。

エルドアン大統領は「庶民の味方」として人気を博している。それだけに、来年3月の地方選を控えた玉ネギ問題は大統領の基盤をゆるがす可能性をも秘めている。

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