5G社会実現に向けて前進、周波数帯を4社が落札

次世代移動通信規格5Gの周波数帯割り当て入札が12日、終了し、ドイツは高速で遅延性の低い通信の実現に向けた一歩を踏み出した。今後は落札各社が速やかに通信網を構築することが課題となる。5Gは工場の機器がネットワークでつながりリアルタイムで情報を交換する「インダストリー4.0」の広範な普及の前提でもあり、製造業界からは工場など局地的なエリアで用いる「ローカル5G」用周波数帯の免許付与条件を速やかに公表するよう求める声が出ている。

連邦ネットワーク庁(BNetzA)が実施した今回の入札ではドイツテレコムなど4社が落札した。これまでは他社の通信網を借り受ける仮想移動体通信事業者(MVNO)だったユナイテッド・インターネット子会社のドリリッシュも落札に成功。今後は自前の通信網を持つようになることから、市場競争の活性化が期待されている。

入札は各社が激しく競り合ったことから長期化し、過去最長の12週間強に達した。入札回数は計497回。競り合いが激しくなった背景には新参のドリリッシュが加わったほか、メーカーなど非通信企業の利用を想定したローカル5G

の周波数帯を入札の対象外としたことがある。

入札では計41ブロックの周波数帯が落札された。各社の落札数はドイツテレコムが13ブロック、ボーダフォンが12ブロック、テレフォニカが9ブロック、ドリリッシュが7ブロック(表を参照)。

落札総額は65億4,965万ユーロに上った。その全額をデジタル化の促進に向けた国営基金が管理し、光ファイバー通信網の敷設支援などに充てる。政府は特に、不採算を理由に通信事業者が投資を見合わせている人口希薄地域の通信環境を改善する意向だ。

落札価格は競り合いの激化を受けて、入札参加企業の想定を大きく上回った。このため、各社にとっては大きな財務負担となる。ドイツテレコムのディルク・ヴェスナー取締役(国内事業担当)は4社の落札総額が基地局5万カ所の設置コストに相当することを指摘。「(落札した)通信事業者は通信網構築の資金に事欠くことになる」と不満を示した。ドイツテレコムは2021年までに基地局3万6,000カ所を設置する計画だ。

落札各社は2022年末までに5G基地局を最低1,000カ所、設置しなければならない。また、各州の世帯の98%、および主要国道と鉄道を対象に通信速度100メガビット毎秒(Mbps)以上のサービスを22年末までに実現するほか、24年末までには◇すべての国道で100Mbpsを実現する◇すべての州道と鉄道、港湾、主要河川で50Mbps以上を実現する――を義務づけられる。

落札各社は協業でコスト圧縮へ

4社は入札競争の激化で投資資金が目減りしたうえ、落札に伴うこれらの条件も満たさなければならないことから、協業を通してコストの圧縮を図る意向だ。ドイツテレコムのヴェスナー取締役は「わが社の拠点(基地局)を競合に開放する」考えを表明した。テレフォニカ独法人のマルクス・ハース社長は、単独では採算を取れない人口希薄地域を中心に協業する方針を明らかにした。4社のなかでは既存の基地局も、基地局建設・運営のノウハウも持たないドリリッシュで協業活用の必要性が特に高いとみられている。

ドイツにはかつて、自前の通信網を持つ移動通信サービス会社が4社あったが、テレフォニカが14年にEプルスを買収したことで3社に減少した。ドリリッシュが今後、自前の通信網を持つようになると再び4社が競い合う形となり、料金低下が期待されている。ただこれに対しては、落札価格高騰で各社の財務が圧迫されることから、価格競争の活性化は期待できないとの見方もある。

BNetzAは今回、2ギガヘルツと3.6ギガヘルツの周波数帯を対象に入札を実施した。3.7~3.8ギガヘルツの周波数帯はローカル5G向けに保留している。

製造業では大手を中心にローカル5G利用の準備を進めており、独自動車工業会(VDA)、ドイツ機械工業連盟(VDMA)、独電気電子工業会(ZVEI)、独化学工業会(VCI)の4団体は13日に共同声明を発表し、ローカル5G用周波数帯の免許付与条件を「可及的速やかに公表する」よう同庁に要求した。ローカル5Gの利用は「製造業の5G利用で世界を主導するための前提になる」と強調。周波数帯の利用料金などの情報を明確化することを求めている。

メーカーは同条件の公表後に免許を申請し、ローカル5Gインフラを構築することになる。一部の大手企業は同インフラを自ら運営するものの、大半は外部の事業者に委託することになる。ドイツテレコムなどの通信事業者のほか、通信網の分野のノウハウを持つエネルギー大手、ドイツ鉄道(DB)、電機大手シーメンスなどが運営サービスを提供すると目されている。

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