英首相が欧州委員長と会談、EU離脱問題に進展なし

英国のジョンソン首相は16日、欧州委員会のユンケル委員長とルクセンブルクで会談し、欧州連合(EU)離脱問題について協議した。しかし、ジョンソン首相が円滑な形で離脱するための具体的な提案を示さなかったことから、話し合いに進展はなく、合意なき離脱の回避に向けて協議を進めることを確認するにとどまった。

英国はメイ政権時にEUと離脱協定案で合意したが、英議会が承認を拒んでいるため、このままでは10月31日に何の取り決めもないまま離脱する事態となる。ジョンソン首相はEU加盟国アイルランドと英領北アイルランドの国境問題をめぐる「バックストップ(安全策)」措置を協定案から削除すれば議会で承認されると見込んでおり、10月17、18日のEU首脳会議で協定案修正に関する合意を取り付けることを目指している。

これに対してEU側は、英国がバックストップの代替案を提示すれば、見直し協議に応じるとしているが、これまで正式な具体案は示されていない。

ジョンソン首相がユンケル委員長と直接会談するのは今回が初めて。欧州委員会によると、ジョンソン首相からバックストップの代替案に関する具体的な提案は一切なかったという。

英議会は10月19日までに離脱協定案が承認され、円滑な形で離脱することが決まらなければ、離脱期限を2020年1月31日まで延期することをEUに要請するよう政府に義務付ける法案を可決したばかり。ジョンソン首相は同日の記者会見で、EUとの合意は可能だとして、延期を否定した。

ジョンソン首相は同日、ルクセンブルクのベッテル首相とも会談。終了後に舞台となったレストランの中庭で共同記者会見に臨むはずだった。しかし、数十人の離脱反対派が集まり、ジョンソン首相に罵声を浴びせるなど騒然とした雰囲気になったことから、会見場から去り、英大使公邸の外で1人で会見に応じる事態となった。

ユンケル委員長は18日、欧州議会の本会議で、ジョンソン首相がバックストップの代替案を提示していないとして、英政府の対応を批判。合意に向けたが時間はほとんど残されておらず、10月末の離脱期限までに合意できるかどうかは「確信がない」として、「合意なき離脱のリスクは依然として非常に現実的だ」と述べた。

EUのバルニエ首席交渉官も欧州議会で、代替案を示さないまま合意が可能としている英政府を「交渉しているふりをするべきではない」と批判した。

これに対して英政府は19日、バックストップ代替案の概要に関する非公式の提案書をEUに提出。これを受けてEUのバルニエ首席交渉官と英国のバークレイEU離脱担当相が20日に協議したが、進展はなかった。

提案書の内容は公表されていないが、◇北アイルランドでは農産物についてはEUのルールを離脱後も適用し、国境での検査を不要とする◇税関の検査は国境から離れた場所で行う――などが含まれているもよう。英フィナンシャル・タイムズによると、欧州委は英国を除くEU加盟27カ国に対して、不十分な内容で「法的に運用可能な解決策ではない」と通知したという。

一方、欧州議会は18日、EUと英政府が昨年11月に合意した離脱協定案に沿った「秩序ある」合意を支持するものの、バックストップがない協定案には応じないとする決議を賛成多数で採択した。離脱期限の延期に関しては、合意なき離脱の回避や総選挙、EU離脱の是非を問う国民投票の再実施といった正当な理由があれば、応じるとする文言を盛り込んだ。

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