欧州クラウド構想を独政府が発表、データ主権重視などで米IT大手に対抗

ドイツ政府は10月29日、独自に練り上げたクラウド構想「ガイアX」を発表した。欧州企業がクラウドサービスでアマゾンなど米国のIT大手に強く依存せざるを得ない状況を改め、データを安心して相互活用できる“エコシステム”を構築するとともに、ビッグデータの利用を通して人工知能(AI)の開発に弾みをつける狙いだ。

クラウドサービス市場ではアマゾン

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サービス(AWS)とマイクロソフトが2強で、これをグーグル、アリババが追っている。中国企業のアリババを除いて米IT大手が圧倒的に優勢だ。これらの企業は工場のネットワーク化(産業IoT)に伴うデータの保存やAI利用など様々なサービスを低価格で提供しており、欧州勢は太刀打ちできない。

アンゲラ・メルケル首相はデジタル分野でのドイツの米国依存を指摘したうえで、「最も憂慮すべきは、ほぼすべての分野で経済・消費者データの管理が米競合のクラウド上で行われていることだ」と明言した。

政府が米クラウドへの依存を懸念するのは(1)今後の競争のカギを握るデジタル分野で独・欧州勢が一段と劣勢になる(2)米国は欧州に比べてデータ主権の保護が弱い――ためだ。

AIは大量のデータを利用して学習し性能を向上させていく。このため、企業のデータが米IT大手のクラウド上に集中し、そこでAIによる解析が行われ続けると、AI分野での米国の競争力は一段と高まり、欧州勢との差は現在以上に開くことになる。

欧州外の企業にも門戸開く

米国では2018年にクラウド法が施行された。これにより、米IT企業が同国外に持つサーバーであっても米当局はデータにアクセスできるようになった。これに対する欧州企業の懸念は大きい。情報通信業界連盟(Bitkom)が独企業を対象に実施したアンケート調査では、「クラウド事業者の本社所在地は欧州連合(EU)内になければならない」との回答が67%に上った。

ドイツ政府はこうした事情を踏まえ、ガイアX構想を打ち出した。構想の作成に当たってはシーメンス、ボッシュ、ドイツテレコム、ドイツ銀行などの独企業と仏IT大手アトスの協力を受けた。

ガイアXは欧州クラウド事業者のネットワークとして構想されており、参加者はデータ主権の尊重を義務づけられる。このためサービスを受ける企業は自社のデータを安心して保存できる。

データ主権を保護する一方で、データを匿名化して相互融通するのもガイアXの特徴だ。これにより新たな事業モデルが作り出されたりAI開発が進展し、欧州の競争力が高まることが期待されている。公的機関も天候や交通など様々な分野のデータを提供する。

政府はガイアXを来年にも始動させる意向。フランス政府と緊密に連携して構想を練り上げたことから、同国が支持するのは確実視されている。他の欧州諸国にも支持を呼びかけ、ガイアXを“汎欧州クラウド”へと発展させる意向だ。

欧州域外の企業であってもデータ主権とデータの相互融通という趣旨に賛同すればガイアXに参加できる。

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