欧州委員会は5日、EU全体で社会的・文化的な性別(ジェンダー)に基づく偏見や差別を排除し、雇用・賃金格差といった男女間の不平等を是正するための「ジェンダー平等戦略」を発表した。今後5年間に取り組むべき優先課題をまとめたもので、労働市場における男女平等の実現に向け、年内に賃金透明化のための具体策を提示する方針を示している。
EUは創設時から男女平等を基本原則に掲げており、EU基本権憲章にはあらゆる分野で男女平等を保障し、性差別を禁止する規定が盛り込まれている。欧州委は2015年、女性の雇用促進と、男女間の賃金や年金の格差是正を柱とする5カ年戦略を策定し、加盟国はそれに沿って独自の行動計画を定めている。しかし、労働市場における男女平等の実現には程遠いのが実情で、女性の賃金は男性より平均16%低く、5年前から格差はほとんど縮まっていない。
欧州委はこうした現状を是正するため、5日付で賃金構造の透明化に関する公開協議を開始した。各方面から寄せられる意見を踏まえ、年内に法的拘束力のある賃金の透明化促進策をまとめる。
一方、EUは意思決定の場における男女平等の実現に向け、女性管理職の比率を高めるための取り組みを進めているが、域内の大企業で最高経営責任者(CEO)が女性のケースは8%にとどまっている。欧州委は男女の均等な待遇の確保に向けて自ら模範を示すため、24年末までにあらゆる部署で管理職の女性比率を50%まで引き上げる目標を掲げた。
欧州委はさらに、域内の女性のうち33%が身体的・性的暴力の標的になっており、性的いやがらせを受けた経験を持つ女性は55%に上ると指摘。女性に対するさまざまな暴力を犯罪とみなすための法的措置を検討する方針を示した。
フォンデアライエン欧州委員長は「男女平等はEUの基本原則だが、依然として実現していない。あらゆる人材や多様性を受け入れなければ潜在能力をすべて引き出すことはできず、人口の半分だけのアイデアや活力では不十分だ。EU全体で男女平等の実現に向けた取り組みを加速させなければならない」と訴えた。