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2020/3/16

EU情報

ECBが新型コロナ対応で追加金融緩和、量的緩和・銀行への資金供給拡大

この記事の要約

新型コロナウイルスの感染拡大で揺れるユーロ圏経済を下支えするのが目的で、量的金融緩和と銀行への資金供給を拡大する。

このため、ECBのラガルド総裁は2日、「適切な措置」を講じる用意があるとする声明を発表し、追加金融緩和を予告していた。

さらに、ノルウェー中銀は13日、政策金利を0.5ポイント引き下げて、1.0%にすると発表した。

欧州中央銀行(ECB)は12日にフランクフルトで開いた定例政策理事会で、追加の金融緩和を決めた。新型コロナウイルスの感染拡大で揺れるユーロ圏経済を下支えするのが目的で、量的金融緩和と銀行への資金供給を拡大する。

ECBはユーロ圏の国債などを買い入れる異例の量的緩和を15年3月に開始し、18年12月に打ち切った。しかし、米中貿易摩擦などの影響で景気減速の懸念が強まり、物価も上がりにくい状況に陥っているため、19年11月に再開し、毎月200億ユーロ規模の資産を購入している。

今回の追加緩和では、年末までに新たに総額1,200億ユーロの資産を買い取ることを決めた。また、新型コロナ感染問題で苦境に立つ中小企業の資金繰り支援策として、「TLTRO」と呼ばれる長期資金供給オペ(金融機関が融資を増やすことを条件に長期資金を供給するオペ)を拡大し、最低でマイナス0.75%という低利で銀行に長期資金を融通することも決定した。同金利は中銀預入金利を0.25ポイント下回る水準。6月から1年間にわたって実施する。

ユーロ圏ではイタリアを中心に新型コロナウイルスの感染が急拡大し、健康被害だけでなく景気も大きく圧迫している。このため、ECBのラガルド総裁は2日、「適切な措置」を講じる用意があるとする声明を発表し、追加金融緩和を予告していた。

世界経済に及ぼす影響がリーマンショックを超える可能性も指摘される新型コロナウイルス問題に対応するため、世界の中銀は積極的に動き始めており、米連邦準備制度理事会(FRB)は3日、主要政策?利を0.5ポイント引き下げ、年1.0~1.25%とすることを決定。英中銀のイングランド銀行も11日に緊急利下げに踏み切り、政策金利を0.75%から0.5ポイント引き下げ、0.25%とすることを決めた。さらに、ノルウェー中銀は13日、政策金利を0.5ポイント引き下げて、1.0%にすると発表した。

これに対してECBは、ユーロ圏の景気が緩やかに回復している時期に金融政策を正常化できず、主要政策金利は0%のまま。中銀預入金利はマイナス0.5%となっている。このため、利下げで対応する余地は小さい。市場では今回の政策理事会で中銀預入金利をマイナス0.6%に引き下げるとの見方が多かったが、見送られた。マイナス金利の深掘りが銀行の収益悪化を招くという副作用を懸念したと目される。

また、これまでの量的緩和では主に国債を買い入れてきたが、残る資産が少ないため、1,200億ユーロの資産買い取りは社債が中心となる。

ラガルド総裁は理事会後の記者会見で、新型コロナウイルス問題で世界経済は「大きなショック」に見舞われていると述べ、追加金融緩和の必要性を強調。一方、金融政策での対応には限界があるとして、ユーロ圏各国に財政出動を呼びかけた。すでに圏内では、感染者が1万人を突破し、死者が1,000人を超えたイタリアが財政出動に動いており、11日に250億ユーロの追加対策を発表したが、他の国に追随するよう求めた格好だ。

一方、ECBは同日公表した最新の内部経済予測で、ユーロ圏の20年の予想成長率を0.8%とし、前回(12月)の1.1%から0.3ポイント下方修正した。21年についても1.4%から1.3%に引き下げた。22年は据え置きの1.4%。インフレ率に関しては、20年が1.1%、21年が1.4%、22年が1.6%で、いずれも据え置いた。