欧州司法裁判所の一般裁判所(下級審に相当)は15日、欧州委員会がアイルランド政府による米アップルへの税優遇措置を違法な国家補助と認定し、巨額の追徴課税を命じた決定を無効とする判決を下した。一部の加盟国が企業誘致のため特定の企業に税優遇を行うことを問題視し、阻止に躍起となっている欧州委にとっては大きな痛手となる。
問題となっているのは、アイルランドの税務当局が2003年から14年にかけてアップルに適用していた優遇措置。アップルはアイルランドのペーパーカンパニーを通じて製品を仕入れ、世界各地に販売した形にして、法人税が低い同国に米国以外の利益が集中するよう会計処理を行い、税負担を軽減していた。
欧州委は2016年、これをアイルランド政府が認めたのは不当で、違法な国家補助に当たるとして、最大130億ユーロの追徴課税を命じた。当時のEUでの追徴額としては、過去最大規模だった。これに対してアイルランド政府とアップルは、決定を不服として欧州司法裁判所に提訴していた。
一般裁判所は、アップルが国家補助の形で特別な税優遇を受けていたことを示すのに必要な「法的基準」を欧州委が提示できなかったとして、原告側の主張を支持し、追徴課税命令を無効とした。
アイルランド政府とアップルは今回の判決を歓迎する声明を発表。一方、欧州委のベステアー委員(競争政策担当)は、判決内容を精査して「次のステップを決める」としている。欧州委が上訴した場合、判決は確定せず、同問題の決着は先送りとなる。
欧州委は一部の加盟国が特定企業に適用している税優遇措置がEUの国家補助規定に違反しているとして、こうしたケースに対する締め付けを2014年から強化。これまでにオランダでの米スターバックス、ルクセンブルクでの欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)への税優遇などが槍玉に挙げられた。
しかし、オランダ政府にスターバックスへの最大3,000万ユーロの追徴課税を命じた件は、今回と同様の理由で19年に一般裁判所から無効とする判決を受けた。これに続く無効判決は欧州委にとって大きな打撃で、オランダ政府によるナイキ、イケアへの税優遇など、調査中の案件に影響が出るとの見方も出ている。しかし、ベステアー委員は声明で、こうした課税逃れの阻止に向けた姿勢は変わらないとしている。