会社の物品や金銭を盗んだ社員は原則的に解雇できる。雇用の継続に必要不可欠な労使の信頼関係が修復できないほど壊されたと判断されるためである。ただ、被害額が極めて小さかったり、盗みを行った社員が長い勤続期間のなかで一度も処分を受けたことがないなどケースでは警告が妥当な処分とされ、解雇できないこともある。この酌量に絡む係争でデュッセルドルフ州労働裁判所が判決(訴訟番号:5 Sa 483/20)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は運送会社で荷物の積み込み・積み下ろし作業と洗車に従事する被用者が同社を相手取って起こしたもの。同社ではコロナ禍の発生後、洗濯室の消毒液が盗まれることが相次いだため、社員の荷物検査を2020年3月23日に実施したところ、帰宅しようとした原告の自家用車のトランクから未開封の消毒液1リットル(当時の時価で40ユーロ)が見つかった。被告はこれを受け、従業員の代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)の同意を得、25日付で即時解雇を通告した。
原告はこれを不当として提訴。審理では◇1時間に1度、自家用車内で使用するために会社の消毒液をトランクに入れておいた◇消毒液を同僚も使うことを想定していた◇トランク内に消毒液を入れておいたのは洗濯室内にないことがあるためだ◇退勤時にトランク内に消毒液があったのは取り出して会社に置いていくのを忘れたためだ――などと主張。窃盗は行っていないと訴えた。
これに対し被告は、◇原告は守衛に、消毒液を社外で使用するために持ち出すことは認められていると話していた◇消毒液を持ち出した場合は即時解雇する旨を洗濯室内の掲示で社員に伝えていた――として、原告は会社の備品を盗んだと反論した。
二審のデュッセルドルフ州労裁は一審判決を支持し、即時解雇を妥当とする判決を下した。判決理由で裁判官は、◇原告が職場で消毒液を使いたいのであればキャリーカートの上に置いておくべきだった◇マイカーのトランクに消毒液があることを同僚に伝えていなかったことなどを踏まえると原告の車のなかで同僚が消毒液を使うことを想定していたとする主張には信ぴょう性が欠ける◇原告が勤務時間中1時間に1度、消毒液を使っていたのであれば、退勤時のトランク内で見つかった消毒液は開封された状態にあったはずであり、消毒液をトランクから取り出して会社に置いていくのを忘れたとする主張は矛盾している――として、原告の行為は窃盗に当たるとの判断を下した。
そのうえで、原告は◇新型コロナの流行を受けて消毒液が不足し、被告企業がその確保に苦労していることを認識していた◇そうした状況下で消毒液を盗めば、同僚が消毒液を使えないことを想定できた――と認定。15年を超える勤続期間のなかでこれまで警告処分を一度も受けていないことや、その他の事情を踏まえても、即時解雇はやむを得ないと言い渡した。
最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告は認めなかった。