投資に基づく国籍付与は「EU市民権の販売」、キプロスとマルタに是正要求

欧州委員会は20日、キプロスとマルタに対し、投資の見返りとして国籍を付与する「ゴールデンパスポート」と呼ばれる制度が欧州連合(EU)条約に違反しているとして、是正を求める法的手続きに着手したと発表した。一定額以上の投資を条件に、当該国とつながりを持たない域外の富裕層などに加盟国の国籍を与える同制度は、EU市民権を「販売」していることになり、市民権の本質を損なうと指摘。両国政府に対して2カ月以内に回答するよう求めており、対応が不十分と判断した場合はEU司法裁判所に提訴する可能性がある。

欧州では2010年代前半にギリシャの財政問題に端を発した債務危機が南欧からユーロ圏に広がり、経済再生に向けて投資と引き換えに居住権などを与える制度を導入する国が増えた。ゴールデンパスポートは不動産投資などの見返りとして国籍を付与する仕組みで、キプロスとマルタのほか、ブルガリアでも導入されている。必要な投資額は100万~200万ユーロとされる。EU加盟国の国籍を取得すれば自動的にEU市民としての権利や恩恵を享受でき、域内の他の国で就労、居住できるほか、選挙権なども得ることになる。

同制度は資金洗浄や犯罪組織との関連性が指摘されており、欧州委は以前から廃止を求めていた。今回、法的手続きに踏み切ったのは、キプロスの実態に関する中東の衛星テレビ局アルジャジーラの調査報道がきっかけ。同局は逃走中の犯罪者や受刑者など数十人がキプロス政府から市民権を付与されていたことを示唆する文書を入手し、犯罪組織がキプロスの「投資に基づく市民権付与(CBI)プログラム」を利用してEU諸国に流入する懸念があると報じた。同国ではその後、政府高官と国会議員による不正疑惑も報じられ、政府は今月に入り、11月1日付でプログラムを停止する方針を打ち出している。

一方、マルタ政府は欧州委の警告を受けて声明を発表。近くゴールデンパスポートを廃止する方針で、8月以降は手続きをすべて停止していると説明した。そのうえで「国民の生活と雇用を守るため」、今後も投資獲得のためのプログラムは不可欠と強調し、現行制度に代わるスキームの導入準備を進めていることを明らかにした。投資額に応じて最低でも1年以上、国内に居住していないと申請できなくするなど、条件を厳格化する方針を示している。

なお、欧州委はブルガリアに対し、現行制度に関する詳細情報の提供を求める書簡を送付した。1カ月以内に回答するよう求めており、対応が不十分な場合はキプロスとマルタに続いて法的手続きに入ることになる。

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