チェコの仮想通貨関連の技術系企業「サトシ・ラボ(SatoshiLabs)グループ」が仮想通貨取引での利用を想定した新しいタイプのセキュリティチップの開発に乗り出す。同社が開発するのはオープンソース(プログラムコードの無償公開)のセキュリティチップで、チップの設計などをオープンに行うことで透明性を上げ、高いセキュリティを確保する。同社がこれまでに開発した仮想通貨のハードウェア・ウォレット(通信環境から隔絶した物理的な保管媒体)「トレゾール(Tresor)」にも搭載する計画だ。
サトシ・ラボでは同目的に向け、新会社のトロピック・スクエア社をこのほど立ち上げた。同社のエングルベルト最高経営責任者(CEO)によると、開発を目指すセキュリティチップはハードウェア・ウォレットの物理的なセキュリティの向上のみならず、利用者の機器にも有用であるという点で画期的だ。同チップにより製品が設計通り正確に製造されていることや、サプライチェーン攻撃が加えられていないことを証明できるという。物理的なセキュリティやデバイスの個別識別、暗号化通信、認証などのセキュリティも強化できる。
計画では、「TASSIC」をコードネームとする同チップは2022年末に導入される。製品化に向けてトロピック・スクエアはスイス投資会社Auzeraから400万ユーロの出資を受け入れた。同社は事業拡大に向け、従業員だけでなくエンジェル投資家を募集している。
サトシ・ラボは2013年、仮想通貨の利用者向けの技術開発を目的に設立され、これまでに仮想通貨のセキュリティを高める複数の製品を開発してきた。トレゾールは世界最初の仮想通貨ハードウェア・ウォレットで、ビットコインの暗号鍵を安全に保管することができる。同社は、トレゾールは初心者が安心して使えるよう、スマートフォンやクラウド上のアプリよりもセキュリティは高いとしている。
同社の仮想通貨取引用プラットフォーム「インビティ(Invity)」は単独のサイトとして、またはトレゾールのインターフェース上で利用できる。英語に対応しており、専門知識のない利用者でもビットコインなど様々な仮想通貨の価格やレートをリアルタイムで比較し、売買を行うことが可能だ。
チェコでは仮想通貨の利用が拡大している。プラハでは弁護士から宅配ピザ、ガソリンスタンド、パブ、タトゥー店まであらゆるモノやサービスを仮想通貨で購入することが可能になっている。エングルベルトCEOは同国で仮想通貨が広く受け入れられている理由として、社会主義時代の通貨切り下げや90年代のモノバンク(単一銀行)制度からの移行期を通じて政府の規制に対する不信感が形成され、銀行が信用されなくなったことを挙げる。同氏はまた、プラハでテック系企業が盛んに立ち上げられていることが仮想通貨のビジネスを支えていると述べた。