EUは7~8日開いた首脳会議で、新型コロナウイルスワクチンの特許権の一時的な放棄について協議し、ワクチンの普及を進める上で短期的な解決策にはならないとの結論に達した。米バイデン政権は特許放棄に前向きだが、EUはワクチンの供給拡大に向け、米国などの生産国が輸出を拡大すべきだと指摘。特許放棄の議論には応じる姿勢を示しながらも、長期的な課題として検討したい考えだ。
製薬会社が保有する新型コロナワクチンの特許権放棄は、生産能力の増強と世界各国への迅速な分配に向けた取り組みとして、インドなどが提唱。バイデン米大統領が今月5日、世界貿易機関(WTO)で提案された一時放棄を支持すると表明し、議論が活発になっている。特許権が一時的に放棄されれば、途上国などでワクチン生産が容易になる一方、品質管理や企業を保護する立場などから反対論も根強い。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は首脳会議後の記者会見で、「議論は重要だが長期的なテーマだ。差し迫った課題は生産能力の拡大だ」と強調。EUはこれまでに域内で生産された2億回分以上のワクチンを輸出していると述べ、自国での接種を優先しているとして批判が強まっている米国や英国に輸出の拡大を呼びかけた。ミシェル大統領も加盟国からさまざまな意見が出たとしたうえで、「(特許放棄は)短期的には魔法のような解決策ではないというのが大半の意見だ」と発言。ただ、長期的にみれば生産増につながるとして「具体的な提案があれば議論に応じる準備がある」と述べた。
EU内では当初、仏マクロン大統領が特許の一時放棄に賛意を示していたが、首脳会議後の会見では「輸出がより重要で、特許権の優先順位は高くない」と発言した。一方、ドイツは米ファイザーとともにいち早くワクチン開発に成功したビオンテックが自国に拠点を置くことから、当初から特許放棄に消極的だった。メルケル首相は8日、生産能力と厳格な品質管理を要求されることがワクチン不足の要因と指摘し、特許権の放棄が供給拡大にはつながらないと主張した。