漁業権巡る英仏の対立、金融サービス分野に波及か

漁業権をめぐる英国とフランスの対立が、金融サービス分野に波及する可能性が浮上している。英国のEU離脱を機に、英仏海峡に浮かぶ英王室属領ジャージー島が領海内での操業に規制をかけたことが発端で、フランス側は自国の漁業者に周辺海域での操業を認めるまで、英国の金融機関がEU金融市場にアクセスできるようにするための協議を見送る姿勢を見せている。

ジャージー島は英仏海峡最大の島で、仏側からわずか20キロの沖合に位置する。周辺海域では英仏双方の漁船が操業してきたが、独自の法律に基づく自治権を持つ同島は英国のEU離脱を受け、一方的に規制を導入。外国船に対し、海域での漁業歴を示すことを操業許可の条件とした。

海域へのアクセスが大幅に制限された仏側は猛反発し、今月6日には50隻以上の仏漁船が抗議のため島最大の都市セントヘリアの港に集結した。これに対し、英政府は「警備のため」海軍の哨戒艇2隻を派遣。仏側も巡視船を送る事態に発展した。自治政府と仏漁業関係者が協議の場を設けることで合意し、ひとまず騒ぎは収まったものの、緊張状態が続いている。

ロイター通信によると、仏当局者は12日、「我々は2つの事柄に関連性を持たせた」と述べ、ジョンソン英首相が仏漁業者に同海域への公平なアクセスを認めるまで、金融サービス分野におけるEUと英国の規制協力に関する協議を見送る考えを示した。アタル政府報道官は定例の会見で、金融サービス分野の協定を漁業問題のテコにているのではないかとの質問に対し、「英国の離脱を巡る問題はすべて関連しており、単独では考えられない」と答えた。

さらに、欧州のある外交官も「(英国に反発しているのは)フランスだけではないし、漁業権だけが問題でもない。英国はEUとの合意を完全に履行しなければならない」と強調した。

欧州議会は4月28日、英国とEUの自由貿易協定(FTA)などを柱とする「貿易・協力協定」を批准し、2020年12月の合意内容が完全発効した。欧州委員会はジャージー自治政府による規制について、EU・英間の協定に反すると主張しているのに対し、英側はジャージー当局の決定を支持している。

一方、英国の金融市場はEU離脱の移行期間が終了した1月からEU市場から切り離された。金融サービスはEUと貿易協定の対象外となっているためで、英国の金融事業者はEU加盟国のうち1カ国で認可を取得すれば域内全域で活動することができる「パスポート制度」が適用されなくなり、一部の決済業務を除いてEU域内の顧客にサービスを提供できない状況となっている。

英金融事業者は英国内でEUと同等の金融規制、監督システムが機能していると認定されない限り、再びEU市場にアクセスすることはできないが、「同等性評価」の作業は遅れている。EUと英国は3月末、金融規制での協力を協議する「共同金融規制フォーラム」の設置で合意。英財務省と欧州委員会の金融サービス担当委員が協議し、同等性評価の作業を進めることになっている。

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