米政府、「ノルドストリーム2」めぐる制裁見送り

米国のブリンケン国務長官は19日、ロシア産天然ガスを海底パイプラインでドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム2」の敷設を手がける事業会社と同社の最高経営責任者(CEO)への制裁発動を見送ることを明らかにした。敷設計画そのものには強く反対しているものの、制裁に踏み切るとドイツとの関係が悪化し、米バイデン政権が目指す同盟国との関係修復にしわ寄せが出かねないことから、発動を控える。ドイツのマース外相は「建設的な一歩だ」と評価するとともに、今後の協議を通して米国の懸念を取り除いていく意向を表明した。

ノルドストリーム2はバルト海経由でロシアとドイツ北部を結ぶ全長1,200キロメートルのパイプラインで、2011年に開通した「ノルドストリーム1」に並行する形で設置される。輸送能力は両パイプラインとも年550億立方メートル。ノルドストリーム2の総工費は95億ユーロで、ロシア国営ガスプロムのほか、独ユニパー、ヴィンタースハルDEA、ロイヤル・ダッチ・シェル、オーストリアのOMV、仏エンジーが出資している。

米国は党派の違いを超えて、ノルドストリームをロシアの地政学的な戦略に基づくパイプラインと位置づけており、米政府はこれまでノルドストリーム2計画の中止を強く求めてきた。

バイデン政権は1月の発足後、同問題についてドイツ政府と協議してきたが、溝は埋まらなかった。背景にはドイツが再生可能エネルギー発電への移行を進めながらも、火力発電を急に全廃することはできないため、当面は石炭と比べ二酸化炭素(CO2)排出量の少ない天然ガスを電源として活用する方針であることがある。ウクライナなど中東欧諸国を経由せず天然ガスをロシアから直接、輸入すればエネルギー安全保障上のリスクが低下することから、独政府はノルドストリーム2の実現に意欲を示している。

米国務省はノルドストリームに関する報告を3カ月に1度、議会に報告している。同省はこのほど議会に送った報告書で、事業会社ノルドストリーム2 AGとヴァルニヒCEOは制裁に値するとしながらも、制裁の適用については見送りを決めたことを明らかにした。3カ月後の次回報告でどのような立場を示すかは未定だ。

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