この夏、ウクライナでバカンスを過ごすサウジアラビア人が急増した。昨年からビザなし渡航が可能になったのに加え、リヤドとキエフを結ぶ定期運航便が週十数便に増えたこと、新型コロナ感染予防措置が多くの欧州連合(EU)諸国に比べて緩いことなどが背景にあるとみられている。新型コロナで大きな打撃をこうむった観光業界にとっては思わぬ朗報で、倒産の危機を逃れた企業もある。一方、旧来の客と習慣やニーズが異なるため柔軟な対応も求められた。
この夏にサウジアラビアからウクライナを訪れた人は推定3万人と、従来の10倍以上に増加した。首都キエフの中心街や古都リヴィウ、カルパチア山脈の保養地ブコヴェルでは、アラビア人の姿が大いに目立った。
旅行会社で働くルスランさんによると、欧州やトルコからの観光客はほとんどが若い短期滞在客だ。キエフのクラブが目当てのテクノ音楽ファンや、チェルノブイリ原発など特定のテーマへの関心が訪問の動機となっている。
しかし、サウジアラビアの人たちは家族全員で長期滞在型のバカンスを送る。3週間滞在することも珍しくない。ホテルの客室の最大50%がアラビア人客で占められ、キエフでは新型コロナがはやる前の2019年夏よりも客室稼働率が上がっているホテルも多い。
サウジアラビア人の目的は歴史や文化よりも、避暑と木々の緑を味わうことにある。このため、冬はスキー客でにぎわうブコヴェルの人気が高い。バカンス中に使う金額は一人当たり3,000ユーロに相当するというから、上客であることに間違いない。
一方で、キエフでもアラビア語のできるガイドが10人以下しかいないというなか、受け入れ態勢は万全ではなかった。飲食店ではイスラム教徒が食べられる食事(ハラール)をメニューに加えることから始まった。喫茶店や居酒屋のほとんどは、酒を飲まないアラビア人客向けに、水タバコ(シーシャ)を置くようになった。また、ホテルでは祈祷室こそないものの、礼拝用のカーペットの貸出しを始めた。
ウクライナ人はその変化に驚きはしたが、アラビア人は酒を飲んで騒ぐこともなく、現地の人と直接交流することもまれなため、問題になることはほとんどない。
観光業界は今年の成功を来年につなげるため、今から受け入れ態勢改善に取り組んでいる。