●中東欧は宇宙関連スタートアップに対する規制が緩い
●ポーランドは官民一体の取り組みで先行
中東欧で宇宙技術を開発するスタートアップが台頭している。9日付の中東欧ニュースサイト『エマージング・ヨーロッパ』によると、将来性のある宇宙産業関連スタートアップが中東欧には多く、外国人投資家の注目を集めている。同地域の宇宙産業は西欧と異なり民間主導で成長しているのが特徴で、独自のエコシステム(循環経済圏)も形成され始めている。一方で今後は海外からの資金獲得をさらに進める必要があるとも指摘されている。
■民間主導の宇宙開発に乗り出す欧州
人工衛星運用システムを提供するエストニアのスタートアップ「スペースイット」のロディ最高経営責任者(CEO)は、中東欧の宇宙産業エコシステムは成長していると話す。同地域で航空宇宙関連のアクセラレーターと接触したり、資金獲得を目的とするピッチイベントに参加したりする宇宙技術関連企業の数が増えているためだ。
同CEOによると、これまで宇宙産業にスタートアップ企業の参入が少なかった背景には、同分野では特殊なノウハウが必要とされることから大国やグローバル企業以外を除き参入障壁が高かったことがある。欧州全体でみても、民間による宇宙技術の開発事業では米国に後れを取ってきた。
しかし、ここにきて欧州も動き始めている。欧州連合(EU)は今年6月に2027年までの宇宙関連プログラムを発表した。それに従い加盟国は衛星の運用、地球観測、宇宙状況把握(SSA)、通信技術などの分野への投資を進める予定だ。同プログラムの実施規模は150億ユーロに上る。
■中東欧地域の優位性
米アリゾナ州のロケット打ち上げ企業ファントムスペースのジム・カントレルCEOは、中東欧は宇宙関連スタートアップに対する規制が緩いため西欧よりも優位な状況にあると述べる。EV大手テスラCEOのイーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXにも参画するカントレルCEOは、中東欧の宇宙関連産業を伸ばすには公的機関よりも民間企業の役割が重要だと話す。国家機関は効率性の点で民間企業に劣るためだ。
問題は投資資金の確保だ。同地域のベンチャーキャピタル(VC)の現状は米国のそれとは大きな隔たりがある。そのため同氏はシリコンバレーなどで活躍するエンジェル投資家に注目すべきだと指摘する。
■官民一体で取り組むポーランド
一方、政府と民間企業が一体となり宇宙関連産業の育成が行われてきたのがポーランドだ。同国では2012年の欧州宇宙機関(ESA)への加盟以来、衛星データの活用や宇宙船で使われる部品開発などに関心を持つ企業が急増した。2010年に100社に満たなかった企業の数は20年には330社まで増加している。その中の1つ、クレオテック・インストルメンツ(Creotech Instruments)は、民生用・商用衛星を基礎から作り上げることのできる同国最初の企業となった。
ポーランド宇宙庁によると、こうした急成長の背景にはESAのポーランド企業向けプログラム「PLIIS」がある。同プログラムではこれまでに企業の研究開発に対し6,500万ユーロを助成してきた。同庁はまた、米マサチューセッツ州にあるイノベーションハブ「ケンブリッジ・イノベーションセンター(CIC)」と共同で「宇宙ハブ」を立ち上げ、宇宙関連技術のスタートアップを支援している。その他にはESAが今年立ち上げたビジネスイノベーションセンター(BIC)のポーランド拠点でスタートアップに対し資金助成や技術支援が行われている。
ポーランド宇宙庁のステルマホフスキ氏はこうした組織の活動により、今後5年程度の間に宇宙技術関連産業にブレークスルーがもたらされるとの見方を示す。同分野の企業の認知度が高まったり、新しい起業家が生まれたりするとの予想だ。