社民首相候補が福祉色鮮明に、市場原理重視の自民との連立を実質拒否か

社会民主党(SPD)のオーラフ・ショルツ首相候補(財務相)は19日発行『日曜版ビルト』紙のインタビューで、首相に就任した場合は社会福祉重視の政策を実施する意向を表明した。連邦議会選挙戦で優位に立つなか投票日が1週間後に迫ったことを受け、決め球を投げた格好だ。中道右派の政党、特に市場原理を重視する自由民主党(FDP)には受け入れがたい政策であることから、FDPとの連立を実質的に拒否する発言との見方も出ている。

ショルツ氏はインタビューで、◇現在9.6ユーロ(時給)の最低賃金を来年12ユーロへと大幅に引き上げる◇公的年金についても現行の給付水準を長期的に維持するとともに、支給開始年齢を現行法の水準(毎年1~2カ月のスピードで引き上げていき2031年に67歳となる)に据え置く――意向を表明。どの政党と連立を組む場合でもこの2点は譲ることのできない条件になるとの立場を明確化した。このほか、年収10万ユーロ(夫婦の場合は20万ユーロ以上)を対象に所得税の最高税率を現在の42%から45%へと引き上げる考えも明らかにした。

有権者が今回の選挙で最も重視しているのは「社会的な公正」だ。ショルツ氏はこれを踏まえ、選挙戦の最終局面で社会福祉重視の姿勢を一段と強く打ち出したとみられる。

今月中旬に発表された各種の有権者アンケート調査をみると、SPDは支持率が25~26%で、安定的に1位を確保。中道右派の競合キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は20~23%にとどまっている。支持率が大きく変動する兆しはなく、現状ではSPDが第一党となり、次期政権樹立の主導権を握る見通しだ。

SPDは政策面で緑の党と比較的近く、両党は連立に前向きな姿勢をともに示している。ただ、両党だけでは過半数議席を確保できないことから、安定政権を樹立するためにはさらにもう一党が政権に加わる必要がある。極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」を除く、CDU/CSU、FDP、急進左派の左翼党の3党が候補となる。

ショルツ氏が今回、打ち出した税・社会保障政策方針は、「小さな政府」と企業負担の軽減による経済成長を描くFDPのものとは相いれない。FDPは政権樹立のために譲歩することを他の政党よりも嫌う傾向が強いことから、SPDを中心とする政権に加わる可能性は大幅に低下した。

左翼党は北大西洋条約機構(NATO)の解体を求めていることがSPD、緑の党との連立の最大の障害となっている。ただ、左翼党の主要な政治家からは最近、譲歩発言が出ており、ドイツ初の左派政権が誕生する可能性は排除できなくなっている。

SPDがCDU/CSUと連立を組む場合は緑の党抜きで過半数議席を確保できる可能性がある。この場合、両党の力関係が逆転する形で大連立政権が継続されることになる。大連立はメルケル政権成立後の16年間のうち12年を占め、国民の倦怠感が強いことから、支持する有権者は少ない。

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