欧州委員長が施政方針演説、安保分野での自立など柱

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は15日、欧州議会で施政方針演説を行い、防衛・安全保障分野で一段の統合を進め、「欧州防衛連合」の実現を目指す意向を表明した。アフガニスタンをめぐる混乱などを教訓に、EUが防衛面で自立性を高め、独自の判断で迅速に対応できる体制を整える考えで、加盟国に対し防衛力強化に向けた「政治的意思」の結集を訴えた。

施政方針演説は欧州委が今後取り組む重要政策などについて説明するため、欧州委員長が毎年9月に行っているもの。フォンデアライエン氏はアフガニスタンからの退避をめぐる混乱について、欧州の同盟国が米軍の撤収延期を要請したにもかかわらず、バイデン政権が部隊撤収を断行したことで、欧州各国も撤退を余儀なくされたと発言。「欧州は自分たちでより多くのことができるし、そうすべきだ」と述べ、EUが「欧州防衛連合として」自らの判断で迅速に行動できるよう、「次の段階に進まなければならない」と強調した。

同氏は具体策として、加盟国が防衛・安保関連の情報を共有し、的確に状況を把握するための新組織「共同状況認識センター(Joint Situational Awareness Centre)」を設立するほか、サイバー攻撃に 対しても加盟国が共同で対応できるよう、法的枠組みを整備すると表明。また、加盟国が使用する武器の相互運用性を高めるため、EU内で開発・製造された装備品を購入する際の付加価値税(VAT)の免除も検討する方針を示した。

EUではこれまでも防衛・安保分野の協力強化が議論されてきた。加盟国は1999年、5万~6万人規模の緊急展開部隊を設置することで合意したが、一部でEUへの権限移譲に慎重な意見が根強く計画が頓挫。07年には1,500人規模の即応部隊を投入する仕組みが導入されたものの、これまで発動例はない。しかし、アフガニスタンからの退避をめぐる混乱を受け、EU内で米国の軍事力に依存する現状への危機感が高まっており、5,000人規模の独自部隊の創設が検討されている。

フォンデアライエン氏は「われわれには能力ではなく、政治的な意思が不足していた」と述べ、加盟国に協力を要請。欧州軍の創設を唱えるフランスのマクロン大統領とともに、同国がEU議長国に就く22年前半にも欧州の防衛をテーマにした首脳会議を開催する方針を明らかにした。

一方、新型コロナウイルスへの対応に関しては、EU域内の成人の70%以上がワクチン接種を完了したことや、7月に運用を開始した「デジタルCOVID証明書」に触れ、「加盟国が連携して取り組んだ結果だ」と成果を強調。また、コロナ禍収束に向けて世界全体でワクチン接種を加速させる必要があると指摘した。EUはすでに2億5,000万回分を途上国に寄付する方針を打ち出しているが、22年半ばまでにさらに2億回分を上乗せすると表明した。

経済面では世界的な半導体不足に言及し、台湾や中国などアジアに依存する現状を改善してテクノロジー分野で欧州が自立する必要があると強調。半導体の安定供給を確保するため、域内での研究開発や生産を推進して「最先端の技術を持つ半導体チップのエコシステムを確立する」と述べ、近く「欧州半導体法」を提案する方針を示した。

気候変動対策では、途上国の温暖化対策を支援するため、EUとして新たに40億ユーロを供出すると表明した。フォンデアライエン氏は「EUと米国が協力して資金不足を補うことで、国際社会に気候変動対策でリーダーシップを示す強力なシグナルを送ることができる」と述べ、米国にも資金支援の増額を求めた。

対外関係では、インフラ支援の新戦略「グローバルゲートウェイ」を近くまとめると表明した。「債務の罠」が問題視される中国の「一帯一路」構想に対抗して、透明性や相互理解などに基づく質の高いインフラ投資を通じ、世界の国々との連携強化を目指す。

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