英が離脱協定の取り決め破棄も、北アめぐる問題で

英国のフロスト内閣府担当相は4日、英政府がEU離脱協定に盛り込まれた「北アイルランド議定書」の大幅な見直しを求めている問題で、EUが応じなければ同協定の取り決めの一部を一方的に破棄すると宣言した。EU側の譲歩を引き出すため、揺さぶりをかけた格好だ。

英政府がEUに要求しているのは、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの自由な通商を維持するため設けたルールの見直し。フロスト氏は英与党・保守党の党大会で、これに応じないEUの態度を「高圧的だ」と批判。見直しで合意できない場合は、不測の事態が生じた際に英国またはEUが一方的に、取り決めの一部を履行しないことを認めるという離脱協定の特別条項に基づく権利を発動すると明言した。

EUと英国が2019年10月に合意した離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて北アイルランド議定書が盛り込まれ、英の離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにすることが決まった。北アイルランドが事実上、EU単一市場と関税同盟に残ることで、通関が北アイルランドとアイルランドの間では行われないようにする。その代わりに、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となった。

英政府は英国が完全離脱した1月から北アイルランドで物流の混乱が生じているため、英本土から入る食品などの複雑な通関・検疫手続きを免除する「猶予期間」を延長するなどして対応してきた。しかし、これらの措置は一時しのぎで、根本的な解決が必要として、7月に議定書の見直しをEUに求めた。北アイルランドの英国による支配を支持する勢力が議定書によって英本土から分断されたとして不満を募らせていることも背景にある。具体的には、本土から北アイルランドに入る物品のうち、北アイルランド経由でアイルランドなどEUに輸出されるものだけを通関・検疫手続きの対象とすることを目指している。

これに対してEU側は、英本土から北アイルランドに流入する物品に通関手続きが生じるのを承知に上で英国は離脱協定を批准しており、物流の混乱は英国側の責任だと主張。英政府が求める問題解決に向けた協議には応じるものの、「議定書の枠内」での個別の解決を模索するとして、議定書そのものの見直しは受け入れない姿勢を堅持している。

EU側は月内に解決策を提案する見込みだが、フロスト氏は同案に期待はできないとして、特別条項で認められた権限の発動を辞さない構えを示した。英政府はこれまでにも権限発動をちらつかせていたが、公の場で改めて強い調子で宣言した。10月中の開始が見込まれるEUとの同問題をめぐる集中協議を前に、ジョンソン政権が得意とする「瀬戸際戦術」に打って出た形だ。

ただ、EU側が議定書見直しに応じる可能性はゼロに近く、しかも議定書の枠内での解決も至難の業だ。英政府が予告通りに協定を破棄すると、双方の関係が混迷し、一層冷え込むのは避けられない。

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