136カ国・地域が新たな国際課税ルールで合意、アイルランドが譲歩

経済協力開発機構(OECD)加盟国を中心とする136カ国・地域は8日、多国籍企業の税逃れを防ぐ新たな国際課税ルールで最終合意した。法人税の最低税率を世界共通で15%とするほか、国境を越えて事業展開する巨大IT企業などに対するデジタル課税を導入する。製造業中心で拠点を前提に整備された国際課税ルールを約100年ぶりに転換する。各国・地域は国内法の改正や条約締結などの手続きを進め、2023年の導入を目指す。

最低税率を設定するのは、企業誘致を目的とした法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけ、大企業が税率の低い国・地域に子会社を置いて税負担を逃れるのを防ぐのが狙い。年間売上高が7億5,000万ユーロ(約970億円)以上の企業が対象となる。OECDの試算によると、最低税率を15%とすることで、世界全体で新たに年間約1,500億ドル(約16兆円)の税収が見込まれる。

一方、デジタル課税は年間売上高200億ユーロ、税引き前利益率が10%を超える企業を対象としたもので、世界で100社前後が該当する見通し。売上高の10%を超えた税引き前利益の25%を課税対象とし、サービス利用者のいる国・地域に配分する。英国やフランス、スペインなどは米巨大IT企業を念頭に独自のデジタルサービス税を導入しているが、多国間条約の発効後に廃止される。

オンライン形式で開かれた国際課税ルールに関する今回の交渉会合には140カ国・地域が参加した。ケニアやパキスタンなど4カ国は合意を見送ったが、これまで反対していたアイルランドとハンガリーが合意に加わった。

新たな課税ルールを巡る議論は、7月にOECD主導で130カ国・地域が大枠合意したが、法人税率が12.5%と低く、アップルやグーグル、フェイスブックといった米IT大手を含む多国籍企業が欧州本社などの拠点を置くアイルランドが他の低税率国とともに異議を唱え、交渉が難航していた。しかし、アイルランド政府は会合前日の7日、国際課税の合意を支持すると表明。最終合意に向けて事態が大きく進展した。

同国のドナフー財務相は方針転換の理由について、7月の大枠合意には最低税率を「少なくとも15%」とすることが盛り込まれていたが、その後の交渉で「少なくとも」の文言が削除され、15%以上に設定される懸念がなくなったためと説明。「困難かつ複雑な判断だったが、アイルランドの産業政策を次の段階に進めるための重要な決定だ。一部の国はより高い税率を主張していたが、交渉で阻止することができた。アイルランドは今後も競争力を維持できる」と強調した。

アイルランド政府によると、国内に拠点を置く約1,500社が法人税率引き上げの影響を受ける見通し。これらの企業は同国で約40万人を雇用しており、就労者の6人に1人が多国籍企業の従業員という計算になる。

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