マイクロソフトの業務用オフィススイート「オフィス」には従来型のパッケージ版のほか、サブスクリプション型のクラウド版「マイクロソフト365(旧オフィス365)」がある。クラウド版は常に最新のソフトが利用できるなど利便性が高いうえ、サポート終了期限もないため、採用する企業は増えている。このクラウド版の導入に絡んだ係争でケルン州労働裁判所が5月に決定(訴訟番号:9 TaBV 28/20)を下したので、取り上げてみる。
裁判はドイツ国内に複数の事業拠点を持つ企業を相手取って事業拠点の事業所委員会(Bteriebsrat)が起こしたもの。被告はオフィス365の導入に向けて全体事業所委員会(Gesamtbetriebsrat)と協議し、2019年5月に同意を取り付けた。これに対し原告は、オフィス365の共同決定権は全体事業所委員会でなく各事業拠点の事業所委員会が持っていると主張。その確認を求めて提訴した。
ここで事業所委員会について簡単に説明しておく。事業所委員会とは従業員の社内代表機関で、事業所内の様々な事柄を雇用主と共同で決定する権限を持つ。企業に複数の事業所がある場合、事業所委員会が事業所ごとに設置されるほか、個々の事業所委員会の代表からなる全体事業所委員会(Gesamtbetriebsrat)も設置される。さらに複数の企業からなるコンツェルンの場合はその上にコンツェルン事業所委員会(Konzernbetriebsrat)という機関を設けることもできる。
今回の係争はオフィス365導入の共同決定権が各事業所の事業所委員会にあるのか、それとも全体事業所委員会にあるのかを巡って争われたものである。
二審のケルン州労裁はこの裁判で、原告の訴えを退けた。決定理由で裁判官はまず、被用者の行動と仕事を監視する機能を持つ機器やソフトの導入は共同決定権になるとした事業所体制法(BetrVG)87条1項6の規定を指摘。被告が導入したオフィス365のソフトにはそうした機能が含まれており、オフィス365導入は共同決定権の対象になるとの判断を示した。被用者の行動と仕事を監視する機能がソフトに備わっていれば、その機能を使うか使わないかにかかわらず導入に際して事業所委の同意を得なければならないとしている。
オフィス365導入の共同決定権が各事業所の事業所委員会にあるのか、それとも全体事業所委員会にあるのかについては、全体事業所委員会にあるとの判断を示した。個々の事業所を超え企業全体で統一的に運用されるためと根拠づけている。
裁判官は上告を認めており、決定は確定していない。