ドイツの社会民主党(SPD)と緑の党、自由民主党(FDP)は15日の首脳会談で連立政権樹立に向け本交渉に入ることで合意した。3党は18日までに各党内で承認を得ており、政権協定の策定交渉は21日に始まる見通しだ。
3党はこれまで予備交渉を行ってきた。そこで政策の大枠合意に達したことから、本交渉に入る。次期首相に就任する見通しであるSPDのオーラフ・ショルツ氏は、遅くともクリスマスまでに新政権を樹立できると述べた。
予備交渉の合意内容は計12ページの文書にまとめられた。3党はこれをベースに今後の交渉を行う。
次期政権が取り組む最重要テーマには温暖化対策、デジタル化、豊かな社会の維持、社会的な一体性の維持、少子高齢化対策が設定された。これらの課題に取り組むため国の全面的な刷新を行う。
温暖化対策では新築する建造物へのソーラーパネル設置を原則化する。業務用の建造物では義務化。住宅でも基本的に設置されるようにする。中小企業や手工業者に対する景気プログラムになるという副次効果を見込んでいる。
風力発電分野では国土の2%を陸上風力発電で使用できるようにする。洋上風力発電についてはキャパシティを大幅に拡大する意向だ。
国内の石炭火力発電に関しては、可能であれば2030年にも全廃できるようにする。現行法では35~38年の全廃を予定しており、大幅に前倒しされることになる。
再生可能エネルギー電力の助成資金を電力料金に上乗せして徴収する現行ルールは廃止する。
デジタル化は特に行政分野で推進する。紙ベースの行政が迅速な手続き実現の障害となっていることがコロナ禍で鮮明になったこともあり、そうした弊害を除去する考えだ。認可手続きに要する時間を半減し、民間・公的投資を速やかに実施できるようにする。
労働分野では最低賃金を現在の9.6ユーロ(時給)から来年は12ユーロへと大幅に引き上げる。これに伴い、被用者の税金・社会保険料納付義務が免除される低賃金労働「ミニジョブ」の月収上限はこれまでの450ユーロから520ユーロへと上昇。また、非正規雇用から正規雇用への転換を促進するため、軽減社会保険料率が適用される「ミディジョブ」の対象賃金の上限も月1,300ユーロから1,600ユーロへと引き上げられる。
さらに、子育てや介護などに直面する被用者が多いことを踏まえ、柔軟な労働モデルを導入できるようにする。3党は国外から質の高い専門人材を獲得するために移民ポイント制を導入することでも合意した。
財源確保が課題に
公的年金については支給開始年齢を据え置くとともに、給付水準が低下しないようにすることで合意した。これは最低賃金の引き上げとともにSPDが譲歩できない条件としてきたもので、同党の要求が通ったことになる。その一方で3党は、世代間の公正を図るため、公的年金に確定拠出型を部分導入することも取り決めた。同運用資金の財源を確保するため、国は来年100億ユーロを年金基金に拠出する。
大幅に不足する住宅を増やすためには、年40万戸を新築する目標を打ち出した。そのうちの10万戸には助成金を交付する。
温暖化対策の強化に向けて富裕層への増税や財政規律の緩和を求める緑の党の主張は退けられた。小さな政府を掲げるFDPの要求が配慮された格好だ。
デジタルトランスフォーメーションや脱炭素化に向けた経済の転換には巨額の資金が必要となる。FDPはこれを企業負担軽減などによるイノベーションと経済成長で実現できるとしているが、エコノミストの間からは疑問が投げかけられている。
これに絡んで緑の党のアンナレーナ・ベアボック共同党首は18日、憲法の財政規律ルール「債務ブレーキ」がコロナ禍で適用外となっている現状を活用することで3党が合意したと発言した。ただ、債務ブレーキの適用が除外されるのは深刻な危機を克服する場合に限られており、脱炭素化など他の用途に流用することには違憲との批判が出ている。