漁業権巡る対立で仏が制裁見送り、報復合戦はひとまず回避

英仏海峡での漁業権を巡る英国とフランスの対立で、仏側は2日に発動を予定していた英国に対する制裁措置の導入を見送り、両国は紛争解決に向けて協議を再開した。対立がエスカレートして報復合戦に発展する事態はひとまず回避されたが、双方とも強硬な姿勢を崩しておらず、紛争が長引けば英EU間の貿易に悪影響が及ぶ可能性がある。

英国のEU離脱に伴い、英仏海峡に浮かぶジャージー島など英領チャンネル諸島周辺海域でEU船籍の漁船が操業するには許可証が必要になった。これまでに仏漁船に付与された許可証は210件ほどで、240件の申請が却下または審査中となっている。仏側は英国の対応は英EUの貿易協定に違反していると主張し、英側が迅速に許可証を付与しない場合、11月2日から◇英国からの輸入品に対する通関手続きの厳格化◇仏国内の漁港での海産物の荷揚げ禁止◇英国漁船に対する保安検査の強化――などの措置を講じると通告した。

英国はこれに対し、EU船舶からの申請の98%を承認していると反論。10月末に英国の漁船が仏当局に拿捕されたことで態度を硬化させ、フランスの対応こそ貿易協定に違反すると非難し、仏側が制裁を発動すれば協定に定められた紛争解決手続きを検討すると表明していた。

マクロン仏大統領とジョンソン英首相は10月31日、主要20カ国・地域(G20 )首脳会議が開催されたローマで会談し、漁業問題について話し合ったが、協議は不調に終わった。1日には両国政府に加え、ジャージー島自治政府と欧州委員会の関係者が事態打開に向けて協議したが、ここでも結論は出なかった。期限が迫る中、マクロン氏は同日、協議が継続していることを理由に、2日の制裁発動を見送ると発表。4日にはフランスのボーヌ欧州問題担当相とEU離脱問題を担当する英国のフロスト内閣府担当相がパリで会談し、話し合いが続いている間は制裁を発動しない方針を確認し、8日以降に改めて協議することで合意した。

フランスが制裁発動を見送ったことで最悪の事態はひとまず回避されたが、マクロン氏は大統領選挙を来年4月に控えており、再選に向けて安易な妥協はできない。一方、英国はEUとの間で北アイルランドの通商ルールを巡る対立が続いており、漁業紛争を交渉材料として利用したい思惑がある。こうした事情から今後の協議は難航が予想される。

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