10月下旬にメルケル首相(当時)と閣僚の解任式が大統領府で行われた。9月下旬の連邦議会選挙を受けて新議会が発足したためだが、この時点でショルツ次期政権は成立していなかったため、メルケル政権は政府機能の空白化を避けるため12月8日まで存続した。思想・理念の異なる政党間で今後4年間の政権の課題を詳細に取り決める政権協定(現政権の協定文書は実に177ページに達する)の策定には時間がかかるため、ドイツでは普通のことである。
さて、その解任式でのことである。シュタインマイヤー大統領は、メルケル首相の在任期間が16年と長期に及んだことから、子供たちはメルケル氏以外の首相を知らないと指摘。そうした子供たちは「男でも首相になれるの?」と質問するだろうと述べた。それまで無表情だったメルケル氏は思わず相好を崩した。
ドイツの首相=女性という認識を何となく持っているのは大人も同じかもしれない。ショルツ氏が首相に就任してからテレビや新聞では「Kanzler(国の首相の意)」という言葉が当然ながら使われるようになった。メルケル氏が首相だったときは「Kanzlerin」であった。
ドイツ語を少しでもかじったことのある人はご存じと思うが、人に関する名詞の語尾に「in」を付けるとそれ人物が女性であることを意味するようになる。例えば「Lehrer」が男の先生であるのに対し「Lehrerin」は女教師を意味する。
ドイツではこれまで16年間、「Kanzlerin」という言葉がメディアで使われてきた。現在はこれがメルケル首相以前の「Kanzler」に戻っただけなのだが、何となくしっくりこない感覚を覚える。