独経済・気候省と環境省は8日、ロシアのウクライナ侵攻に伴い天然ガスの供給が不足した場合の穴埋めを、原子力発電の稼働期間延長で行うことは効果と経済性が低いうえ、法律と安全上のリスクも大きいとする検討結果を発表した。冬季に最大となる電力需要に対応するためには、原発の稼働を延長するよりも石炭発電を有効活用した方が良いとしている。この見解はあくまで議論のためのたたき台と位置付けられており、政府が原発稼働延長の可能性を排除したわけではないが、緑の党が大臣ポストを握る両省は同稼働延長に否定的な立場を示したことになる。
ドイツは2011年の福島原発事故を受け、国内原発の全廃時期の前倒しを決めた。現時点で3原発が稼働しているが、今年末までに最終停止することが法律で決まっている。
石炭発電についても炭素中立の実現に向け35~38年に全廃することが決定済みだ。与党の政権協定では可能であればこれを30年に前倒しすることが取り決められている。
だが、ロシアが2月24日にウクライナへの軍事侵攻を開始し、欧米が踏み込んだ対露制裁を発動したことで、脱原発・石炭政策見直しの機運がにわかに高まっている。ドイツのエネルギー安定供給が危ぶまれているためだ。ロベルト・ハーベック経済・気候相も2月末の時点で、現実的な対応が必要だとして、原発と石炭発電の利用期間延長を排除しない意向を示していた。
両省は今回の声明で、緊急時用の予備電源などに指定されている石炭発電所を活用して天然ガス不足に対応することに前向きな見解を示したものの、原発についてはデメリットが大きいとして稼働延長を「推奨できない」との立場を表明した。原発の安全性に関してはロシア軍が3日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所を攻撃したことを深刻視。同様の事態がドイツなど他の欧州諸国でも起こることを排除できないとしている。原発に対する破壊工作というシナリオも想定しなければならなくなったとしており、ザポリージャ原発への攻撃が両省の判断にもたらした影響は大きい。