欧州連合(EU)やドイツ政府が今後、仮に中国に対して制裁を課した場合、ドイツ経済が受ける影響は比較的小さい――。11日付『フランクフルター・アルゲマイネ』紙がエコノミストなどへの取材をもとに報じたもので、中国への依存リスクは見かけほど大きくないとしている。
ウクライナへのロシアの軍事侵攻後、ドイツの経営者の間には中国との関係の先行き不安が広がっている。中国を最大市場とする自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース社長は9日、同国の習近平国家主席が欧米などの対露制裁を批判するだけでなく、核戦争も辞さない構えを見せるロシアのプーチン大統領への批判を控えていることについて「大きな懸念」を表明。EUとドイツが中国に対しても制裁を発動した場合、経済的にどのような影響が出るのかは全く予想できないと述べた。同紙によると、EU内には、第3次世界大戦が勃発しかねない現在の状況下で中国政府が「侵略者(ロシア)の側」につけば、EUと中国の経済関係は「甚大なダメージ」を受けるとの声があるという。
中国との貿易額は昨年2,454億ユーロとなり、同国は6年連続でドイツ最大の貿易相手国となった。政府の研究・イノベーション委員会(EFI)によると、中国は計13の技術分野のうち9分野で最大の輸入先国となっている。このため、中国との貿易が仮に途絶えたり大幅に減るとドイツ経済は深刻な打撃を受けるとみられている。
だが、独企業のサプライチェーンを調査したIfo経済研究所のリサンドラ・フラッハ氏は、中国からの輸入品のほとんどは他の国からの輸入で置き替えることができると指摘する。同氏によると、他国への切り替えが難しい製品がドイツの輸入に占める割合は5%で、中国製品はそのうちのわずか3%に過ぎない。中国に依存せざるを得ない製品が輸入全体に占める割合は0.15%にとどまる計算だ。
ドイツ企業の中国市場への依存は輸入面での依存に比べ大きい。主力産業の自動車は同国が断トツで最大の市場となっている。販売台数に占める中国の割合は昨年、VWブランド乗用車で44%、アウディで43%、メルセデスで38%、BMWで34%、ポルシェで29%に達した。
中国市場に詳しいコンサルタントのヨッヘン・ジーベルト氏は、中国が台湾に侵攻すればドイツ企業は中国市場から撤退しなければならなくなるとして、独自動車メーカーは同市場の喪失を見据えた事業プランを用意しておく必要があると指摘。そのうえで、中国市場撤退は短期的に痛みを伴うものの、他の市場を開拓すれば5~10年で販売減を相殺できるとの見方を示した。特にVWについては競合のトヨタ自動車に比べて弱い北米や東南アジア市場を開拓する余地が大きいとしている。また、中国以外であれば現地企業との合弁を強要されないことから、合弁先と利益を分け合う必要もなくなるというメリットもあるとしている。
ダイムラーなどの高級車メーカーについては、北米市場の開拓がすでに限界に達しているため、中国市場喪失の痛手はVWに比べ大きいとしながらも、利益率の高いモデルの投入で対処できると述べた。