英国のトラス首相が20日、辞任を表明した。9月下旬に打ち出した大型減税策が金融市場の混乱を招き、経済対策の主要部分は撤回を余儀なくされて退陣に追い込まれた。9月6日の政権発足から44日での辞任表明で、在任期間は英史上最短となる。トラス氏の後任を決める与党・保守党の党首選は、24日午後に立候補が締め切られ、候補者が1人の場合は同日中に新首相が決定する。動向が注目されていたジョンソン前首相は23日夜、立候補を断念した。これにより、すでに立候補を表明しているスナク元財務相が次期首相に就任する可能性が高まった。
トラス氏は辞任の理由について「低税率で高い経済成長を目指すビジョンを示したが、現状では職務を果たすことができないと認識した」と述べた。トラス氏は大型減税で経済成長を促す政策を掲げて保守党党首選に勝利し、首相に就任した。9月23日には総額450億ポンド(約7兆円)の減税策を発表したが、同時に打ち出した半年で600億ポンドの家庭および企業向けエネルギー対策の財源確保に向けた具体策が示されなかったため、財政悪化への懸念から国債金利が急騰し、通貨ポンドも急落。国際通貨基金(IMF)が「対象を絞らない大規模な財政パッケージは推奨しない」との声明を発表するなど、国際的な信頼も失墜した。
トラス氏は今月14日、クワーテング財務相(当時)を解任するとともに、法人税率の引き上げ凍結を撤回した。今月3日には所得税の最高税率引き下げを撤回しており、トラス政権は目玉と位置づける大規模減税策の抜本的な見直しを余儀なくされた。こうした中でクワーテング氏の後任となったハント財務相は17日、減税策の「ほぼすべてを撤回する」と表明。2023年4月から所得税の最低税率を19%に引き下げるとしていた計画を20%に据え置くほか、配当税の引き下げなどを撤回した。一方、家庭および企業向けエネルギー対策に関しては、来年4月以降の措置について、財務省主導で見直す方針を明らかにした。
党首選の運営を担う党内組織「1922委員会」によると、立候補には党所属の下院議員357人のうち100人以上の推薦が必要。これにより、党首選は最大3人の候補による争いとなる。候補が1人の場合は24日に新首相が決定。2人の場合は一般の党員によるオンライン投票で28日に結果が判明する。3人の場合は24日中に議員投票で2人に絞り込んだうえで、党員によるオンライン投票を実施する。
立候補を断念したジョンソン氏は声明で、自身が今なお多くの党員から広く支持されていることから「党首選に勝利し、首相官邸に戻ることはできただろう」と強調。そのうえで「党の結束がなければ効果的な政権運営はできない。自分にできることは多いと信じているが、今はその時ではないと判断した」と述べた。
公共放送BBCによると、前回党首選の決選投票でトラス氏に敗れたスナク氏が23日夜時点で146人の推薦を確保しており、当選に向けて大きく前進した。これに対し、同じく立候補を表明したモーダント下院院内総務への支持は24人にとどまっている。一方、ジョンソン氏への推薦は57人だった。