英国の下院は3月22日、同国が欧州連合(EU)を離脱した後もEU単一市場に残った北アイルランドの通商ルール見直しをめぐるEUと英政府の合意を賛成多数で承認した。与党・保守党の一部と北アイルランドの主要政党で親英国派の民主統一党(DUP)が反対に回ったが、野党の支持で承認を取り付けた。これを受けてEUの欧州委員会のシェフチョビチ副委員長と英クレバリー外相は24日、「ウインザー・フレームワーク」と称される合意文書に調印。同問題をめぐる約3年にわたる対立に終止符が打たれた。
採決では賛成515票、反対29票の圧倒的多数で合意が承認された。保守党では反EU派の22人が反対。スナク首相の前任者で、通商ルール見直しの協議に関わったジョンソン元首相、トラス前首相も反対に回った。DUPでは8議員のうち6議員が反対票を投じた。
EUと英国が2019年10月に合意した離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて北アイルランド議定書が盛り込まれ、英の離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにすることが決まった。北アイルランドが事実上、EU単一市場と関税同盟に残ることで、通関が北アイルランドとアイルランドの間では行われないようにするのが狙いだ。
その代わりに、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となる。これについて英政府は、同ルールによって北アイルランドで物流が混乱するなどとして、北アイルランド議定書で取り決められた通商ルールの抜本的な見直しを21年7月に要求。これに反発するEUとの協議が難航していた。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長と英スナク首相は2月末、同問題で合意した。「ウインザー・フレームワーク」と称される同合意では、最大の焦点となっていた通関について、北アイルランドだけで販売される物品については通関手続きを大幅に減らす。一方、北アイルランド経由でアイルランドなどEU域内に輸出されるか、輸出される可能性がある物品は、通常の通関検査を受ける。
さらに、EUが物品に関する新ルールを導入する際、北アイルランド議会の2党以上の政党に属する30人以上の議員から要請があれば、英政府が拒否権を発動できる仕組みを設けることも決まった。反対派は、合意のうちEUの既存のルールが北アイルランドに適用されることに強く反発していた。
スナク首相にとって、次の課題となるのがDUPの懐柔。北アイルランドでは2022年5月に実施された議会選挙で、議定書を支持するカトリック系のシン・フェイン党が第1党となったが、英国への帰属意識が強い第2党のプロテスタント系DUPが連立議定書の見直し求めて連立を拒否し、自治政府が樹立できない状態にある。DUPがEUとの合意を受け入れない限り、政治空白が続く。DUPのドナルドソン党首は、英政府に合意の見直しを求めており、現時点で連立政権を組むつもりはないと述べた。