独ティッセンクルップの造船子会社ティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)と印同業マザゴン造船所は7日、インド海軍向けに潜水艦を建造することで基本合意した。両国の戦略パートナーシップを踏まえたもので、ムンバイで行われた趣意書の調印式には独ボリス・ピストリウス国防相が参加した。受注獲得に成功すれば建造する。
建造する場合、TKMSはエンジニアリングと設計、コンサルティングを引き受ける。マザゴン造船所はインドで建造。海軍への引き渡しを行う。同国で建造することで現地のバリューチェーンが強化される効果が見込まれている。ロイター通信が2月に報じたところによると、TKMSは52億ドルでの受注を目指しているもようだ。
両社は1980年代にも潜水艦4隻を印海軍に共同納入した実績を持つ。このときは2隻をHDW(現TKMS)が独キール、残り2隻をマザゴン造船所がムンバイでそれぞれ建造した。4隻は現在も同国で現役使用されている。
今回の協業の背景には地政学的なリスクの高まりがある。ドイツ政府は中国の強権化を受けて同国への経済依存を引き下げる「デリスキング」を推し進めるとともに、インド太平洋地域でのパートナーシップ国を増やしていく考え。人口が多く経済も急速に発展するインドとの関係強化は自然な流れだ。来年に3年ぶりのインド太平洋派遣が予定されているフリゲート艦は、印ゴア港への寄港とインドとの共同演習が見込まれている。
ピストリウス氏は、インドへの兵器輸出規制緩和は論理的な次の一歩だと明言した。日本・オーストラリア向けと同等の水準に引き下げるべきとしている。ただ、インドは制度的に民主国家とはいえ、人権保護が弱いうえ、同じ核保有国の隣国パキスタンと恒常的に対立するなど問題が多いことから、政府内で支持を得られるかは微妙だ。
インドはロシアからの兵器輸入に強く依存してきた。ドイツなど西側諸国からの輸入が増えれば、国際政治でロシアへの斟酌が弱まる可能性がある。
だが、現時点でロシアに対するインドの信頼は根強い。ソ連時代から兵器を輸入してきたうえ、1998年の核実験でインドが米国の経済制裁を受けた際もロシアは原子力発電の分野でインドに協力する姿勢を取ったためだ。