ドイツ政府は電気自動車(BEV)の購入補助金を今年末で打ち切るもようだ。これまでは来年末の終了を予定していたが、政府・与党は財政計画に対する連邦憲法裁判所の11月の違憲判決を受けて、大幅な歳出削減で合意。そのしわ寄せでBEV補助金の終了時期が前倒しされる。同補助金の支給源である「気候・トランスフォーメーション基金(KTF)」に関する政府文書をもとに『ハンデルスブラット(HB)』紙が15日に報じた。
BEVの購入に対してはKTFから補助金が支給される。支給額は現在、4万ユーロ以下のBEVで4,500ユーロ、5万~6万5,000ユーロのBEVで3,000ユーロとなっている。来年1月からは対象が4万5,000ユーロ以下の車両に制限され、支給額も3,000ユーロに引き下げられるものの、助成は続くことになっていた。
BEV補助金廃止の前倒しについてはハーベック経済・気候相が13日の記者会見で明らかにしていたが、具体的な時期については伏せていた。
同補助金は連邦経済・輸出監督庁(BAFA)が窓口となっている。HB紙が政府関係者の話として報じたところによると、すでに受け付けた申請は処理するものの、年明け以降は新規受付を中止するという。
BEVの販売は過去10年間、ほぼ一貫して増加してきた。CAR自動車研究センターのフェルディナント・ドゥーデンフェファー所長は、補助金打ち切りの影響でBEVの新車登録台数が来年は9万~20万台減少し、シェアは現在の18%から11%に急低下するとの見方を示した。
BEVは内燃機関車に比べ価格が大幅に高い。ベルギッシュ・グラートバッハ経済専門大学(FHDW)付属自動車研究センター(CAM)によると、ドイツ国内の今年の平均価格は5万2,700ユーロ(補助金と特別装備を除いたベース)となり、前年を4,000ユーロ強上回った。補助金が廃止されれば、BEVを購入できる所得水準の消費者は一段と減ることになる。
■内燃機関車禁止の延期要求強まる
一方、欧州では内燃機関車の販売を2035年以降、禁止するとした欧州連合(EU)の政策に対する批判が強まっている。電池などの材料価格が高騰し、BEVの分野で自動車メーカーの利益が圧迫されているためだ。高級車大手アウディのゲルノート・デルナー社長は、ディーゼル車・ガソリン車と同水準の利益率を20年代半ばに実現するとしたこれまでの目標は達成できないとの見方を示した。
21年に「エレクトリック・オンリー」路線を打ち出しBEV化を加速していたメルセデスベンツのオラ・ケレニウス社長も、内燃機関車の生産終了について「戦術的に柔軟に」対応するとして、微修正の姿勢を示している。ステランティスのカルロス・タバレス最高経営責任者(CEO)は内燃機関車の禁止を「現実離れした教条主義」と切り捨てる。欧州議会の最大会派である欧州人民党(EPP)のマンフレート・ヴェーバー党首は、来年6月の欧州議会選挙後に内燃機関車の禁止政策を廃止することに前向きな姿勢を見せている。