ロシアの国営ガスプロムが2日発表した2023年通期決算は、最終損失が6,290億ルー
ブル(64億ユーロ弱)となり、2000年以来で初めて赤字を計上した。欧州連合
(EU)がロシア産天然ガスの調達量を大幅に減らしたのに対し、ガスプロムがそれ
に見合うだけの新たな輸出先を見つけられなかったことが背景にある。ロイター通
信によると、現地アナリストらは減益するも4,470億ルーブルの黒字は確保できる
と予想していた。22年は1兆2,000億ルーブル(125億ユーロ)の純益を計上してい
た。
石油売上高が増加したものの、ガス売上高が半減して足を引っ張り、総売上高は8
兆5,000億ルーブル(806億ユーロ)に縮小。前年の11兆7,000億ルーブル(805億
ユーロ)から大きく後退した。採算面でみると、以前は「おまけ」に過ぎなかった
石油事業が利益をけん引しており、欧米などの制裁の効果が不十分な疑いがある。
ガスプロムの主要取引先であったEUは、2021年時点で天然ガス需要の40%をロシア
から調達していたが、2年後の23年には8%に減らした。ウクライナ侵攻を受けて調
達先を切り替える動きが広まったのに加え、主な輸送路であったノルド・ストリー
ムが22年9月に爆破されたことも響いたとみられる。
今後もガスプロムをめぐる環境は厳しい。ウクライナ政府は年末に期限を迎えるロ
シアとのガス輸送契約を更新しない方針で、ガスプロムにとってはEUへの輸出手段
がまた狭まる。また、欧州委員会は27年以降、ロシアからの化石燃料調達をストッ
プすることを提案している。実現すれば、液化天然ガス(LNG)の取引も中止され
ることになる。
一方、ガスプロムはアジアを中心に、EUに代わる取引先を模索している。しかし、
アジア諸国への輸出拡大には巨額のインフラ投資が必要で、これも財務を圧迫して
いる。
また、ロシアが期待していた中国との取引拡大も思うように進んでいない。ウクラ
イナ侵攻直前の北京冬季五輪開催時に会談したプーチン大統領と習近平国家主席が
「両国の友好に制限はない」と宣言したにも関わらず、中国向けの「シベリアの
力・第2天然ガスパイプライン」の敷設計画は足踏み状態だ。仮にこれが開通した
としても、その輸送能力は500億立方メートルで、昨年の対中国輸出実績(220億立
方メートル)と合わせても720億立法メートルと、20年の対EU輸出量(1,600億立法
メートル)の半分以下に過ぎない。
中国の天然ガス調達先はロシアだけではない。カザフスタンやトルクメニスタンか
らも輸入できる。中国がこの立場を利用して、ロシア産ガスの購入価格を抑えよう
とするのは必至だ。加えて、ロシアにとっては中国へのガス輸送コストが欧州へよ
りも高い。これらの理由から、中国との取引はEUとの取引よりも利が薄くなる。