ドイツの化学業界で国内投資よりも国外投資を優先する動きが強まっていることが、
独化学工業会(VCI)の8日の発表で分かった。産業立地拠点として抱える構造問題の
解決に本格的に取り組む姿勢を政府が示さないことが背景にある。VCIは声明で「将
来も技術立国である続けるためのポテンシャルをドイツは十分に持っている。欠如し
ているのはこのポテンシャルを競争に投入できるようにするための正しい枠組み条件
だ」として政府に真摯な対応を強く促した。
2024年上半期に独化学業界が国内で行った投資は前年同期比2%減の92億ユーロに縮
小した。一方、国外投資は8%強増の約120億ユーロと大きく拡大している。VCIは外
資が対独投資を尻込みしていることも指摘し、ドイツが将来技術の先駆者になるため
のトランスフォーメーションは停滞する恐れがあると危機感を表明した。
VCIが加盟企業を対象に実施したアンケート調査では、「規制に伴う手間暇・コス
ト、緩慢な認可手続き、次々と導入される新規制」をドイツが抱える経営上の足かせ
要因として上げる回答がダントツで多く、72%に達した。これに「人件費高」が
55%、「エネルギー高」が45%で続いた。規制に伴うコストは売上高の平均5%に達
しているという。
VCIのマルクス・シュタイレマン会長は「すべての点で政治的な対策を打つことはで
きるし、またそうしなければならない。(社民・緑・自民の3党からなる現)政権は
そうしていると主張する。だが、現実はそうは見えない」と述べ、構造的な産業立地
問題の有効な解決策がいつまで経っても実施されないことに苛立ちを示した。
政府に対し◇投資を喚起するため国内・欧州連合(EU)レベルで規制を削減する◇企
業のコスト負担を軽減するため、電力税・送電料金や法人税を引き下げる――などを
要求している。
独化学・製薬業界の上半期の生産高は前年同期比で3.0%増加した。「地平線上に薄
日が差してきた」(シュタイレマン氏)状態。ただ、工場稼働率は79%と長年の平均
(82〜85%)を依然として大きく下回っている。ロシアのウクライナ侵略に伴う危機
が発生する前の21年同期に比べると生産高は約11%も低い水準だ。
生産高を分野別でみると、これまで減少幅が大きかった基礎化学品分野で伸び率が大
きく、無機化学品は12.0%、「石油化学品と誘導体」は8.5%に上った。それ以外の
分野では変化が小さく、洗剤・ボディケア用品・化粧品は2.0%増、ポリマーは1.5%
増にとどまった。ファイン・スペシャル化学品は2.0%減と振るわない。顧客産業の
減産に伴う新規受注の減少が響いた。危機の影響がほとんどない製薬は1.5%増とな
り、これまで同様、安定的に推移した。
業界売上高は1,120億ユーロで、前年同期を1.0%下回った。出荷価格が平均4.0%下
がったことが反映されている。国内売上が5.0%減の400億ユーロと大きく後退。国外
は同1.5%増の720億ユーロに拡大した。
24年通期予測は据え置いた。生産高で前年比3.5%増、売上高で同1.5%増を見込む。
製薬を除いたベースではそれぞれ5.0%増、1.0%増を予想している。
加盟企業アンケート調査では、24年の売上増を予想するとの回答は48%となり、売上
減の同35%を上回った。ただ利益に関しては減益が46%に上ったのに対し、増益は
38%にとどまった。コストを顧客に転嫁しにくい状況が続いているもようだ。
化学業界の景気が回復する時期については「24年下半期〜25年」が50%で最も多かっ
た。これに「すでに回復が始まっている」が29%、「26年以降」が21%で続いた。