ドイツ東部のテューリンゲンとザクセン州で1日にそれぞれ行われた州議会選挙で、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と新党ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)が大勝した。国政与党は得票率をそろって落としており、ショルツ政権への不満が鮮明に表明された格好だ。AfDは両州で得票率30%超の大勢力となっており、外資の投資見合わせなど悪影響が懸念されている。
テューリンゲン州では前回(2019年)トップだった州与党、左翼党が得票率を17.9ポイント減の13.1%と大幅に落とした。同党から分離して1月に設立されたばかりのBSWに大量に票を奪われたためだ。BSWは15.8%に上った。
AfDは9.4ポイント増の32.8%を獲得し、トップに躍り出た。極右が州レベルで第1党となるのは戦後初めて。事前のアンケート調査で予想はされていたたものの、大きな衝撃が広がっている。
2位は中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)で1.9ポイント増の23.6%を記録。国政与党3党は社会民主党(SPD)が2.1ポイント減の6.1%、緑の党が2.0ポイント減の3.2%、自由民主党(FDP)が3.9ポイント減の1.1%だった。緑の党とFDPは議席獲得に必要な5%を比例区で割り込んだことから、全議席を喪失した。
ザクセン州ではCDUが0.2ポイント減の31.9%とほぼ横ばいを維持し、第1党の地位を保った。ミヒャエル・クレッチマー州首相(CDU)の高い人気がプラスに働いた。AfDは3.1ポイント増の30.6%で2位を堅持。CDUの背中を捉えた。BSWは11.8%で3位となった。国政与党はSPDが0.4ポイント減の7.3%、緑の党が3.5ポイント減の5.1%、FDPが3.6ポイント減の0.9%だった。左翼党は5.1ポイント減の4.5%と5%ラインを割り込んだものの、小選挙区で6人が当選したことから、議席を確保した。
■移民・難民問題を投票で最重視
ショルツ政権は与党間の不和が絶えないほか、ロシアのウクライナ侵略で大きく変わった経済環境に対応する適切な政策を打ち出せないでいる。このため、支持率は全国レベルで低下しているものの、東部地域(旧東ドイツ)では国政に拒否感を持つ人が特に多い。そうした有権者の票が、ウクライナ支援や移民・難民などの分野で政府の政策を全面否定するAfDとBSWに流入したもようだ。
世論調査機関ヴァーレンが公共放送ZDF向けに実施した出口調査によると、今回の投票では国政を州の政治よりも重視したとの回答がザクセン州で35%、テューリンゲン州で34%とともに3分の1程度にとどまており、有権者の60%以上は州の政治を重視した。だが、AfDの投票者では国政重視がそれぞれ54%、51%と過半数に達しており、国政への不満が特に強いことがうかがわれる。
投票で最も重視したテーマでは「移民・難民」との回答がダントツで多く、ザクセンで35%、テューリンゲンで32%に上った。難民の大量流入や、本来は滞在資格のない難民申請者の多くが滞在と給付金の受給を継続していることへの強い不満が背景にある。もとより東部地域では排外的な市民が西部地域に比べ多い。イスラム過激思想に感化されたシリア難民が選挙の直前に市民3人をナイフで刺し殺す事件が起きたことは国政与党に不利に働いた可能性がある。
ウクライナへの軍事支援についても「減らすべきだ」との回答がテューリンゲンで55%に上った(ザクセンについてはデータなし)。AfDとBSWの投票者ではそれぞれ85%、69%とさらに多い。ウクライナ支援は力による現状変更に対する西側民主主義諸国の危機感に基づくもので、国政与党だけでなく、同野党のCDUも支持している。東部地域ではこうした姿勢に批判的ないし消極的な市民が多いことが浮き彫りになった形だ。
■連立交渉の難航必至
各党の獲得議席数をみると、テューリンゲンではAfDが32、CDUが23、BSWが15、左翼党が12、SPDが6となっている。総議席数は88のため、過半数ラインは45となる。AfDは第1党となったものの、他の政党から連立を拒否されているため、CDUを中心に他の政党が連立を模索することになる。その場合、過半数議席を確保できるのはCDU、BSW、左翼党の連立に限られる。
これら3党は政策理念の隔たりが大きい。BSWは左翼党にとって自党の勢力を大幅に弱めた不俱戴天の敵であるという事情もある。また、CDUは旧東ドイツの独裁政党だった社会主義統一党(SED)の後継政党である左翼党との連立を一貫して拒否しているという問題があり、同3党連立はハードルが高い。このため次期政権は、左翼党のラメロウ氏を首班とする現政権同様、少数派政権となる可能性がある。
AfDの議席数は全体の36%を占め、重要議決の拒否に必要な3分の1(33.3%)を超えた。このため、同党が賛成に回らない限り、議会の中途解散や州憲法の改正を行うことはできない。
ザクセン州でも次期政権の樹立は難航が避けられない。政権の安定運営に必要な過半数議席を獲得するためには、いずれの場合もBSWとの連立が必要になるためだ。次期政権交渉の中心となるCDUが、反米親露でウクライナ支援に批判的なBSWと政策の共通項を見つけるのは容易でない。それでもクレッチマー州首相(CDU)はBSWとの連立を模索する意向だ。各党の獲得議席数はCDUが41、AfDが40、BSWが15、SPDが10、緑の党が7、左翼党が6、「自由な有権者(FW)」が1。総議席数は120で、過半数ラインは61となる。
今回の選挙は世界的に大きな注目を集めた。ナチスによる人道犯罪の歴史と批判的に向き合ってきたドイツで極右が高い得票率を獲得したためだ。米『ニューヨーク・タイムズ』は「この(選挙)結果はドイツの民主主義の健全性と未来にとって憂慮すべき兆候だ」と報じた。仏『ル・パリジャン』は不安定なショルツ政権にとってさらなる大きな打撃だとしている。
排外主義の強まりは外資の進出の足かせとなる。差別や身体の危険にさらされるリスクの高い地域に社員を駐在させるのはためらわれるためだ。企業や経済団体は選挙に合わせ反AfDキャンペーンを展開してきたが効果がなかった。