欧州連合(EU)と1月末にEUを離脱した英国の自由貿易協定(FTA)など将来の関係の構築に向けた交渉の集中協議に第1週は、進展がないまま2日に終了した。3日まで行われる予定だったが、双方の主張の相違が依然として大きいとして、1日早く打ち切った。
EUと英国は3月に交渉を開始したが、最大の焦点であるFTAなどで要求が真っ向からぶつかり合い、過去4回の協議でほとんど進展はなかった。こう着した状況を打開するため、これまで毎月1回、1週間をかけて行う方式を改め、6月最終週から集中的に交渉することで先ごろ合意。これに基づいて第1回の集中協議がブリュッセルのEU本部で6月29日に開始された。
2回目以降の交渉は新型コロナウイルスの影響でテレビ会議方式で行われていたが、今回から対面方式に戻った。双方の首席交渉官が顔を合わせて協議することで突破口が開けるとの期待があった。しかし、EUのバルニエ主席交渉官は2日の交渉を終えた後に発表した声明で、「4日間にわたって話し合ったが、大きな相違が残っている」と述べ、失望感を表明。双方は3日に主席交渉官同士が1対1で協議することになっていたものの、中止で合意し、溝の深さをうかがわせた。
英国は1月31日にEUを離脱したが、20年12月末までは移行期間となるため、貿易など双方の関係は基本的に変わらない。同期間中にFTAや安全保障、外交、司法での協力など幅広い分野にまたがる将来の関係をめぐる交渉をまとめることになっている。
FTAに関しては、双方とも関税ゼロでの貿易の継続を目指すことで一致している。英政府はEUとカナダが締結した協定と同様のFTAを念頭に置く。「カナダ方式」ではEUのルールに合わせなくても、ほとんどの関税が撤廃されるためだ。
これに対してEU側は、関税ゼロには公平な競争環境の確保が不可欠として、英国が今後もEUの競争法や公的補助、環境、労働者の権利などに関するルールに従うことを要求しているが、英国は国家の主権を盾に反発。もうひとつの大きな懸案となっている漁業権でも、英海域でのEU加盟国の漁業権維持をめぐって対立している。
今回の交渉でも、これらの問題で妥協点を見出すことはできず、物別れに終わった。集中協議は7月27日の週まで毎週実施されることになっており、交渉は6日にロンドンで再開されるが、双方とも歩み寄りの気配は薄く、引き続き交渉の難航が予想される。
移行期間は延長しないことが決まったことから、交渉は年内妥結の必要がある。これが実現できなければ、双方の貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿ったものとなり、関税が復活する。
EUでは1日にドイツがEU議長国となった。独メルケル首相は1日に国会の質疑で、集中交渉の第1週でも「協議がほとんど進展していない」と述べ、ドイツとEUが「合意なし」で英国との新たな関係に突入することに「備えなければならない」と発言。交渉決裂への強い懸念を示した。こうした事態を回避するため、今後の交渉でメルケル首相が議長国として介入し、強い影響力を行使して妥結を図る可能性がある。