加盟国と欧州議会が「欧州気候法案」で合意、温効ガス「30年までに55%減」

欧州連合(EU)加盟国と欧州議会は4月12日、2050年までにEU域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標に法的拘束力を持たせる「欧州気候法(案)」の内容で合意した。争点となっていた30年までの温室効果ガス削減目標は、現行の1990年比で「40%減」から「少なくとも55%減」に引き上げられる。新法は閣僚理事会と欧州議会の正式な承認を経て発効する。

欧州気候法はEUの包括的な環境政策「欧州グリーンディール」の柱となるもので、欧州委員会が昨年3月に法案を発表した。法案は、50年までにEU全体で温室効果ガス排出量を実質ゼロにすると明記。欧州委が5年ごとにEUと各国の取り組みを評価して、目標達成に向けた進捗をチェックすることや、50年にかけて中間目標を設定し、対策が不十分と判断した場合は加盟国に改善勧告を出すことなどを提案していた。

加盟国と欧州議会の意見調整が最も難航したのは、30年までの温室効果ガス削減目標。EUは90年比で40%減を掲げていたが、欧州委のフォンデアライエン委員長は昨年9月の一般教書演説で、50年のカーボンニュートラル(気候中立)の実現に向けて30年までに域内の温室効果ガスを「少なくとも55%減らす」と表明。化石燃料に依存するポーランドやチェコなどが削減目標の引き上げに難色を示したものの、加盟国は12月のEU首脳会議で55%減とすることで合意した。これに対し、欧州議会は90年比で60%減の目標を盛り込んだ修正案を可決。最終的により野心的な目標を掲げる欧州議会が譲歩し、森林の二酸化炭素(CO2)吸収などによる貢献分を差し引いた「正味で少なくとも55%減」とすることで合意した。

一方、40年を達成期限とする中間目標に関しては、23年に予定されているパリ協定に基づく1回目のグローバルストックテイク(5年ごとに世界規模で温暖化対策の進捗状況を評価するプロセス)の実施後、遅くとも6カ月以内に欧州委が提案する。その際、欧州委は「温室効果ガス予算(greenhouse gas budget)」と呼ばれる、EU域内で30~50年に許容される温室効果ガス排出量の予測値を、方法論と共に公表する。

さらに今回の協議を通じ、欧州議会が要求していたEUおよび加盟国の政策を科学的に評価する専門機関として、「気候変動に関する欧州科学諮問委員会(European Scientific Advisory Board on Climate Change)」の設置が決定した。委員会は15人の専門家で構成され、任期は4年。EUが掲げる気候中立目標と政策の整合性や、目標達成に向けた加盟国による取り組みの進捗状況などを評価する。

欧州委のフォンデアライエン委員長は声明で「欧州グリーンディールの中核となる法律の内容で合意が成立したことを歓迎する。50年までに気候中立を実現する最初の大陸になるというEUの政治的公約は、間もなく法的拘束力を持つ公約となる」とコメント。ティメルマンス執行副委員長(欧州グリーンディール政策統括・気候変動対策担当)は「本日の合意は、気候変動への取り組みを主導するEUの立場を強化するものだ」と述べ、米政府が主催する22-23日の気候変動サミットで、EUが世界のリーダーとして議論を主導したい考えを示した。

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