欧州連合(EU)の欧州委員会は6月30日、英国本土から北アイルランドへのソーセージなど冷蔵食肉製品出荷に関する規制の適用停止を3カ月延期すると発表した。7月1日から出荷が禁止されるはずだったが、英政府の要請に応じて、猶予期間を9月末まで延長する。英のEU離脱によって生じた双方の対立の象徴となっている「ソーセージ戦争」が、一時休戦となった格好だ。
EUと英国の離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて「北アイルランド議定書」が盛り込まれ、北アイルランドと地続きで国境を接するEU加盟国アイルランドの間に物理的な国境は設けず、英の離脱後も物流やヒトの往来が滞らないようにすることが決まった。これによって北アイルランドは事実上、EU単一市場と関税同盟に残るため、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となった。
このため、域外の第3国からのソーセージ、ひき肉など冷蔵食肉製品の輸入を禁止するルールが北アイルランドに適用され、英国がEUから完全離脱した21年1月から、北アイルランドは英本土から同製品を入荷することはできないことになった。双方の取り決めにより、6月30日まで猶予期間として入荷が認められていた。
英政府は7月1日からの出荷禁止を避けるため、6月17日に猶予期間を9月30日まで延期するよう要請。これをEU側が受け入れた。ただ、欧州委は北アイルランドの市民生活に及ぶEU離脱の影響を軽減するための一時的措置で、再延長には応じない意向を表明。9月末までに根本的な解決策を見出す必要があるとしている。それが不可能な場合に備えて、北アイルランドのスーパーに、英本土以外の調達先を確保するよう呼びかけた。
ソーセージ戦争は英のEU離脱に伴って北アイルランドで物流が混乱している問題の一部にすぎない。英政府は3月、同問題に対応するため、北アイルランドのスーパーなどに英本土から入る食品などの複雑な通関・検疫手続きを免除する猶予期間を3月末から10月1日まで延長すると一方的に宣言し、EUの猛反発を招いている。
EU側は英国がスイスと同じように、食品衛生などに関するEUのルールに離脱後も従えば、本土から北アイルランドに流入する物品の8割で通関・検疫が不要となり、食肉規制をはじめとする多くの問題も一気に解消すると主張している。しかし、英政府はEU離脱によって国家主権を取り戻した意味が薄れるとして拒否してきた。ソーセージ戦争は一時休戦となったものの、同期間中に恒久的な解決策で合意できるか不透明な情勢だ。