域内金融機関に即時決済サービスの提供義務化、欧州委が法案

欧州委員会は10月26日、欧州連合(EU)域内の金融機関に対し、ユーロでの即時決済サービスの提供を義務付ける法案を発表した。EU全域でより統合された安全かつ迅速な決済システムを構築する取り組みの一環として、域内に銀行口座を持つすべてのEU市民と企業、とりわけ中小企業にとってメリットの大きい即時決済の普及促進を図る。

従来型の口座振替は受取人の口座に着金するまで最長で3営業日を要するのに対し、即時決済は金融機関の営業時間に関係なく、商品やサービスの購入時にほぼリアルタイムで支払い処理が完了するため、特に小売店などにとって利便性が高い。また、金融システムの中で滞留している「決済フロート」と呼ばれる資金(1日に約2,000億ユーロ)が解放され、それによって消費や投資が促進される。しかし、EUでは2017年から即時決済が可能になっているにもかかわらず、口座振替のうち即時決済が占める割合は2022年初頭で11%にとどまっている。

即時決済の普及に向けた欧州委の提案は、国境を越えたユーロ建ての小口決済を国内と同様に行えるようにするためのスキーム「単一ユーロ決済圏(SEPA)」に関するEU規則(2012年制定)を修正する内容。具体的にはEU域内の金融機関に対し、従来型の口座振替と同じかそれ以下の手数料で、ユーロでの即時決済サービスを提供することを義務づける。ユーロ圏の金融機関は新ルールの導入から6カ月以内に即時決済で入金できる体制を整え、12カ月以内に送金も可能にしなければならない。一方、非ユーロ圏の金融機関は24カ月以内に対応する必要がある。

また、即時決済の信頼性を高めるため、金融機関に支払人が指定した国際銀行口座番号(IBAN)と受取人の情報が一致していることを確認し、間違いや不正の可能性がある場合は支払人に警告することを義務づける。

さらにEUの制裁対象となっている個人や団体に資金が流れる事態を防ぐため、金融機関は日々、顧客が制裁リストに含まれていないかチェックする必要がある。

欧州委のマクギネス委員(金融安定・金融サービス・資本市場同盟担当)は声明で「振り込みが翌日になる送金から、支払い処理が10秒で完了する即時決済への移行は、郵便から電子メールへの移行に匹敵する劇的な変化だ。ほぼリアルタイムで送受金が完了するこの決済システムは、すべてのEU市民と企業に直接利益をもたらすものだ」と強調している。

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