欧州連合(EU)加盟国は2日に開いた臨時首脳会議で、今秋に任期が切れるEUの主要ポストの人選で合意した。最大の焦点となっていた欧州委員会の委員長にはドイツのフォンデアライエン国防相(60)を指名。欧州中央銀行(ECB)の総裁にはフランス出身のラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事(63)の起用を決めた。欧州議会の承認を経て正式決定すれば、重要ポストの2つを初めて女性が占めることになる。
EU大統領(欧州理事会常任議長)にはベルギーのミシェル首相(43)、EUの外相に相当する外交安全保障上級代表にはスペインのボレル外相(72)を指名した。
EUの主要ポストは、出身国や性別、欧州議会内の勢力とったバランスに配慮して人選を進めるため、調整が難しい。フォンデアライエン氏は欧州議会最大会派の中道右派、ボレル氏は第2勢力の中道左派、ミシェル氏は第3勢力のリベラル会派に属する。会派間のバランスを保った形となる。さらに欧州委員長とECB総裁を女性とすることで性別のバランスもとった。
大きな焦点となっていたのは、10月末に退任するユンケル欧州委員長の後任。欧州委員会はEUの内閣に当たり、政策の立案、決定などを担う。その委員長はEUの最重要ポストだ。
後任選びをめぐっては、順当ならば先の欧州議会選挙で最大会派となった中道右派・欧州人民党(EPP)が推すウェーバー欧州議員(独出身)が指名されるはずで、ドイツのメルケル首相も支持していた。しかし、フランスのマクロン大統領が資質に欠けるとして反対に回り、5月20日に開いた首脳会議では決着がつかず、決定を同30日の臨時首脳会議に先送りした。
ドイツとフランスは事態の打開に向けて、5月28~29日に開かれた20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)で、妥協策として元オランダ外相で現在は欧州委の副委員長を務めるティメルマンス氏を欧州委員長とし、ウェーバー氏を欧州議会の議長に推すことで合意。30日の臨時首脳会議に臨んだ。
しかし、同日の会議ではティメルマンス氏と法の支配などをめぐって対立してきたポーランドなど中東欧諸国が反発。イタリアも独仏の密約と批判して反対に回って調整が難航し、日程を延長して3日間協議することになった。
2日の首脳会議では、メルケル首相の腹心で、政権の全期間を通じて閣僚として首相を支えてきたフォンデアライエン国防相を指名する案が浮上。これによって、ようやく決着した。EUトップの欧州委員長、ユーロ圏の金融政策を担うECBの総裁という2大ポストを独仏が分け合う形となった。ただ、メルケル首相は連立政権に加わるドイツ社会民主党に配慮し、中道右派のフォンデアライエン氏を表立って支持するわけにはいかず、投票では棄権に回った。
今回の人選はEU大統領を除き、欧州議会の承認が必要。欧州議会の第2会派である中道左派グループはフォンデアライエン氏の欧州委員長就任に反対しており、同氏が過半数の支持を獲得できるかどうか不透明な情勢だ。
一方、欧州議会は3日に開いた本会議で、新議長にイタリア出身のサッソリ議員(63)を選出した。これでEU主要機関のトップの全員が指名された。
サッソリ氏は第2会派の中道左派に属する。欧州委員長が中道右派、EU大統領がリベラル会派から指名されたことから、上位3会派が政治的なバランスをとり、サッソリ氏の選出を支持した。議長を第2会派に譲ることで、フォンデアライエン氏の欧州委員長就任に反対する同派の姿勢を軟化させたいという思惑もあるようだ。