英国の与党・保守党は7月23日、次期首相を選ぶ党首選の決選投票で、ジョンソン前外相が新党首に選出されたと発表した。ジョンソン氏は24日に新首相に就任。同国にとって最大の懸案となっている欧州連合(EU)離脱問題のかじ取りを担うことになった。強硬離脱派の同氏が新首相となることで、EUとの取り決めがないまま10月末に離脱する「合意なき離脱」が現実味を帯びてきた。
EU離脱の混迷で6月7日に党首を辞任したメイ首相の後任を選ぶ今回の選挙では、6月下旬に行われた党所属下院議員による5回の投票で、EUからの「合意なき離脱」も辞さない強硬離脱派のジョンソン前外相と穏健離脱派のハント外相が勝ち残り、決選投票に進出。約16万人の保守党員を対象とする決戦投票では、ジョンソン氏が9万2,153票、ハント氏が4万6,656票と、2倍近い大差でジョンソン氏が選ばれた。
ジョンソン氏は2016年に実施されたEU離脱の是非を問う国民投票に際して、離脱派の急先鋒として活動した人物。党首選では「合意なき離脱」も辞さない構えを打ち出し、強硬離脱派が多い保守党員の支持を集めた。過去に暴言や失言を繰り返し、世間をにぎわせながらも、その強烈な個性がリーダーにふさわしいと評価された面もある。
英政府とEUは2018年11月に離脱協定案で合意した。しかし、英議会で承認されないため、離脱期限が当初の3月29日から10月末に延期された経緯がある。ジョンソン氏は離脱協定案の見直しをEUに求めるが、EUが応じなければ離脱期限を延長することなく10月31日に離脱する「合意なき離脱」も辞さないと明言している。
ジョンソン新首相は就任後に首相官邸前で行った初演説で、EUと新たな離脱案で「合意できると確信している」としながらも、「問答無用で10月31日にEUを離脱する」と発言。EU側が離脱案修正を認めない場合も想定し、合意なき離脱への準備を進める考えを示した。
こうした姿勢を反映し、主要閣僚は強硬離脱派で固められた。外相には合意なき離脱も辞さないとするラーブ前EU離脱担当相を起用。ジョンソン氏の離脱方針に反発して辞任したハモンド財務相の後任にはジャビド内相を充てた。留任したのはバークレイEU離脱担当相だけだった。議会運営の要となる下院院内総務には、保守党内の離脱強硬派のリーダー格であるジェーコブ・リースモグが就任した。
離脱協定案では、EUを離脱した直後に双方の関係が激変し、貿易などに大きな影響が及ぶのを避けるため、2020年12月末までを「移行期間」とし、英国が関税同盟にとどまるなど実質的にEUに残留することになっている。しかし、英議会が協定案を承認しなければ移行期間が適用されないまま「合意なき離脱」に至り、経済や市民生活に大きな混乱が生じる。
英議会が離脱協定案で槍玉に挙げているのは、英国領の北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境問題の扱い。移行期間中に最終的な解決策でEUと合意できない場合に期限付きで英国が関税同盟にとどまる「バックストップ(安全策)」措置が導入されることを問題視している。解決策を見出すのが困難で、英国が事実上、恒久的に関税同盟に残留し、EUのルールに縛られることになりかねないという理由だ。
EUが同問題をめぐる離脱協定案の見直しに応じない中、メイ首相は議会の承認を取り付けるメドが立たないことから、政権運営に行き詰まって辞任に追い込まれた。豪腕で事態を打開するとの期待を担って新首相となったジョンソン氏は、EUが離脱協定案の見直しで合意しなければ、協定案に盛り込まれたEUへの390億ポンドの「手切れ金」支払いを拒否する構えを示し、EU側に譲歩を迫っている。
しかし、EU側は25日に行われた欧州委員会のユンケル委員長とのジョンソン新首相との電話協議で、協定案をめぐる再交渉に応じないことを改めて確認した。このため、ジョンソン新首相は合意なき離脱に突き進む可能性がある。ただ、保守党は北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)の閣外協力で下院の過半数をかろうじて維持している状態で、政権基盤は弱い。議会内では離脱支持派の間でも合意なき離脱には反対する勢力が多く、ジョンソン氏が方針転換すると予想する向きもある。