英が12月12日に総選挙実施、労働党が反対取り下げ

英下院は10月29日、総選挙を12月12日に実施する法案を賛成多数で可決した。欧州連合(EU)離脱をめぐる混迷を打開するためジョンソン首相が提案した前倒しの総選挙を拒否してきた最大野党・労働党が賛成に回り、3年半ぶりの総選挙実施が決まった。首相は与党・保守党が過半数を奪回し、政権基盤を固めた上で、早期のEU離脱を実現したい考えだ。

同法案は賛成438票、反対20票で可決した。30日に上院で承認され、正式に成立する見通しだ。

英政府とEUは17日、新たな離脱協定案で合意した。しかし、英下院が協定案の早期採決に応じないため、ジョンソン首相は10月31日の離脱を断念し、EUに離脱期限延長を要請する事態に追い込まれた。EUは29日、離脱期限を最長で2020年1月31日まで延期することを正式決定。英議会が離脱協定案を早期に可決した場合は、延期の期間を短縮することを決めた。

保守党はメイ政権時の17年6月に実施された総選挙で惨敗し、過半数を割り込んでいる。7月に就任したジョンソン首相は、10月末の離脱を実現するため、9月に2度、総選挙を求めたが、労働党などの反対で拒否された。28日には総選挙実施の3度目の動議を提出したが、否決されたばかりだった。

英国では議会任期固定法で、解散総選挙には下院の3分の2以上の賛成が必要と定められている。ジョンソン首相は今回に限って過半数の賛成で可決できるという特例法を新たに提案。保守党や労働党の支持を得て、ついに総選挙に持ち込んだ。

これまで労働党は、世論調査で劣勢となっていることから総選挙に後ろ向きで、EUからの合意なき離脱を回避できることが確実にならなければ総選挙に応じないという姿勢を堅持してきた。離脱期限延期が決まったことで大義名分がなくなり、多くの議員が賛成に回った。ただ、選挙で勝てないと懸念する約200人が棄権した。

英下院は定数650。総選挙は650の全選挙区で、得票が最も多い候補が当選する単純小選挙区制で行われる。

最新の支持率調査では、保守党が労働党に10ポイント以上の差をつけてリードしている。ジョンソン首相は保守党が再び過半数の議席を確保することで、離脱協定案を確実に可決できる状況を作るため、総選挙に打って出た。同日には自身のEU離脱方針に反発したため9月に追放した保守党議員21人のうち10人の復党を認め、選挙態勢を強化した。

ただ、保守党にとって脅威となっているのが、EUからの強硬離脱を唱えるファラージ氏率いるブレグジット(離脱)党。先の欧州議会選で躍進した新党だ。下院の議席はゼロだが、勢いを駆って反EU派の票を取り込むことで、国政進出を狙っている。保守党と支持層が重なっているため、票の奪い合いになる可能性がある。

ファラージ党首は1日、ジョンソン首相がEUと合意した離脱協定案について、完全な離脱にならないと批判。合意なき完全な離脱に向けて、保守党と「離脱同盟」を結成し、選挙協力することを呼びかけた。さらに、首相が協定案を破棄し、立候補の届け出が締め切られる11月14日までに選挙協力に応じなければ、イングランド、スコットランドの全選挙区で候補者を擁立し、保守党と争うことを言明した。

これに対して、ジョンソン首相は同日、ファラージ党首の提案を拒否する意向を表明したため、両党が対決する構図が生まれ、保守層の票が分散して野党を利する「共倒れ」になりかねない。

一方、野党側は自由民主党、スコットランド民族党(SNP)がEU残留派で、離脱の是非を問う国民投票の再実施を公約に掲げて選挙に臨むとみられる。労働党と共闘し、各選挙区でジョンソン政権の離脱方針に反対する層の取り込みに成功すれば、与党を敗北に追い込むことも可能とみられている。

しかし、労働党は離脱をめぐる立場が党内で分かれており、EUと合意した協定案に沿った離脱を支持する勢力と国民投票再実施、EU残留を求める議員が入り乱れている。このため、労働党のコービン党首は選挙キャンペーン初日の31日に行った演説で、総選挙ではジョンソン政権が軽視してきた医療、教育、社会福祉の拡充を有権者に重点的に訴える方針を示した。離脱問題については、EUと交渉し、より良い離脱協定案をまとめた上で、それに沿って離脱するか、EUに残留するかを問う国民投票を実施し、6カ月以内に問題を決着させる意向を表明した。労働党が残留、離脱のどちらを支持するかは明言しなかった。こちらも保守党と同じく、支持層が他党に流れる恐れがある。

いずれにせよ、選挙戦は始まったばかり。ブレグジット党の動きや、野党の連携によって情勢は大きく変動する見通しで、選挙の行方は予断を許さない。保守党が単独で過半数を確保できなければ、EUと合意した離脱協定案が宙に浮くことが予想され、離脱の先行きも混迷を増すことになりそうだ。

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