WTO紛争処理で上訴制度の暫定枠組み、EUと中国など16カ国が合意

世界貿易機関(WTO)における紛争処理の最終審にあたる上級委員会が機能不全に陥っている問題を巡り、欧州連合(EU)と中国など16カ国は1月24日、暫定的な上訴制度の枠組みを構築することで合意した。WTO改革が進んで紛争処理制度が十分に機能を回復するまで運用する方針。今回の合意に米国や日本は含まれておらず、合意国間の紛争にのみ新たな枠組みが適用される。

上級委は本来7人体制だが、紛争処理に不満を持つ米国が継続的に委員の再任や補充を拒否した結果、2017年から欠員状態が続いていた。昨年12月には残る3人のメンバーのうち2人が任期満了を迎えたため、3人で1つの紛争案件を担当するとの規定を満たせなくなり、加盟国が一審にあたる紛争処理小委員会(パネル)の裁定を不服として上訴しても、上級委で審理できない機能停止に陥っている。

EUはWTOの紛争処理で上訴される案件の比率が約7割に上る現状を踏まえ、二審制を維持するための「緊急対応策」として、現行システムを踏襲した暫定的な上訴制度を構築することを提案。中国、カナダ、ブラジル、オーストラリア、韓国など16カ国がこれを支持した。

EUと16カ国は共同宣言で「WTOの紛争解決制度は国際ルールに基づいた貿易システムにとって最も重要であり、必要不可欠な特性の1つとして公平で独立した上訴機関が存続しなければならない」と指摘。欧州委員会のホーガン委員(通商担当)は紛争解決手続きにおける上訴制度の必要性を訴えたうえで、「上級委の機能不全を受け、必要な改革や改善を通じて永続的な解決策を探る努力を続ける」と強調した。

1月24日にはスイス東部ダボスでWTOの非公式閣僚会合が開かれ、日本やEUなど35カ国・地域が紛争処理制度のほか、水産資源の乱獲につながるとして批判が高まっている漁業補助金、投資円滑化などについて協議した。WTOのアゼベド事務局長は会合後の記者会見で、紛争処理を含む制度改革について加盟国から多くの提案や意見が出されたと説明。「近いうちにさらに前進できると考えている」と述べ、6月の閣僚会合で一定の成果を得るため協議を加速させる方針を示した。

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