2010/3/1

アイスランド、早期のEU加盟なるか

この記事の要約

欧州委員会は2月24日、アイスランドとEUの加盟交渉開始を加盟国に勧告した。金融危機で大打撃を受けたアイスランド政府は、孤立政策から転換し、経済再建の切り札としてEU加盟を選択。昨年7月の加盟申請から異例の短期間で、交渉 […]

欧州委員会は2月24日、アイスランドとEUの加盟交渉開始を加盟国に勧告した。金融危機で大打撃を受けたアイスランド政府は、孤立政策から転換し、経済再建の切り札としてEU加盟を選択。昨年7月の加盟申請から異例の短期間で、交渉開始に向けた欧州委の同意を取りつけた。順調に行けば2012年にも加盟が認められる見通しだ。ただ、経営破たんしたアイスランドの銀行に口座を持っていた英国、オランダの預金者への返済をめぐる問題など障害があり、曲折も予想される。

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アイスランドとEUの加盟交渉開始には、現加盟国の全会一致による承認が必要。EUは3月25、26日の首脳会議で可否を判断する。承認されると加盟候補国として正式承認され、加盟交渉が始まる。

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アイスランドは人口約32万人の小国だが、伝統的に漁業、農業が盛んで、さらに近年になって金融が発達して経済を大きく支える存在となり、国民1人あたりの国内総生産(GDP)は3万6,777ドル(2008年時点)と、欧州でも有数の経済力を持っていた。民主主義、法秩序など社会の基本構造がEUの理念と一致していることもあり、EUに加盟する気であれば、とっくの昔に加盟国となっていたはずだ。しかし、国家経済にとって重要な漁業政策で主権を手放したくないことから、加盟を見送ってきた。

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この状況が一変したのは2008年の金融危機。金融システムが崩壊し、全銀行が国有化されるという事態に陥った。昨年4月の総選挙で誕生した社会民主同盟(SDA)を中心とする連立政権は、経済再建にはEUの傘に入ってユーロも導入し、信用を回復することが必要との結論に達し、7月に加盟を申請。欧州委は今回、同国が加盟交渉開始の条件を満たしていると判断し、勧告を出した。

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加盟交渉、漁業が焦点

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すでにアイスランドはEU加盟国を主体とする欧州経済領域(EEA)に参加し、EU経済に事実上組み込まれている。欧州委によると、同国は輸入の54%をEUに頼り、輸出の76%がEU向けだ(08年時点)。欧州内での出入国審査を廃止する「シェンゲン協定」にも参加し、市民は大部分のEU加盟国をパスポートなしで旅行できる状況にある。さらに、国内法とEU法の調和が進んでおり、すでに加盟基準の4分の3を満たしているとされる。このため、加盟手続きの障害は、過去の中東欧諸国を対象としたEU拡大時より障害ははるかにすくない。先行して加盟交渉を行っている加盟候補国のうちトルコを追い抜くのは確実で、クロアチアよりも早く加盟が実現することもありえるとの見方がある。

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欧州委が今後の課題としているのが、漁業、農業、金融機関の監督などでのルール調和。なかでも漁業が大きな焦点とみられている。アイスランドはEUより厳しく漁業資源を管理しながら漁業水域を保全してきたが、EUに加盟すると共通漁業政策に組み込まれ、統制権を失うことになるためだ。加盟交渉では、この問題について何らかの特例措置を確保したいアイルランド側とEUの激しい綱引きが展開されそうだ。

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英蘭、預金問題で交渉開始阻止も

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当初は、この漁業問題が加盟交渉で事実上、唯一の障害と目されていた。ところが、ここにきて大きな問題として浮上してきたのが、預金返済をめぐる英国、オランダとの対立。これが解決しなければ両国が報復として加盟交渉開始に拒否権を発動する恐れがあり、最初の試練を迎えている。

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アイスランドは08年10月、破たんした大手銀行ランズバンキを国有化すると同時に、同行のネット銀行「アイスセーブ」の外国人口座を閉鎖し、英国、オランダの預金者が大きな影響を受けた。両国の預金者には、それぞれの政府が肩代わりして払い戻され、アイスランドが両政府に総額57億ドルに上る債務を抱える形となっている。3カ国は債務返済で合意し、アイスランド議会が12月末に関連法案を可決したものの、大統領が国内経済に大きなしわ寄せが及ぶとして法案への署名を拒否し、法案の可否を3月6日に国民投票にかけることになっている。

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政府が法案に基づいて返済に応じれば、支払額は1世帯あたり6万ドル相当の負担になることから世論は反発しており、このままでは国民投票での否決が確実。早期のEU加盟を最重要課題とするアイスランド政府は、返済に上乗せする利子を英、オランダが求める水準より引き下げ、返済総額を軽減して国民の理解を得る方向で両国と交渉を進めたが、25日に協議が決裂した。欧州委は同問題と加盟交渉は切り離して扱うという考えだが、国民投票で否決されると英、オランダが強硬手段に出て加盟交渉開始を阻止することが濃厚で、アイスランドはいきなり出鼻をくじかれることになる。

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また、加盟交渉が完了し、EUから加盟を承認されたとしても、国民投票で賛成を取り付けなればならない。金融危機直後はEU加盟支持に傾いていた世論も、英、オランダとの対立を契機に風向きが変わりつつあり、世論調査機関ギャルップがこのほど財界人を対象に実施した調査では60%が加盟に反対だった。金融危機の混乱が国際通貨基金(IMF)などの支援によって落ち着きを取り戻せばEU加盟待望論が冷め、再び名誉ある孤立を選ぶ可能性も捨てきれない。

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