2010/10/18

総合 –EUウオッチャー

海底油田開発の統一ルール提案、認可制導入など=欧州委

この記事の要約

欧州委員会は13日、海底の油田・ガス田の掘削に関するEU共通ルールの導入を、来年前半に正式に提案する方針を明らかにした。加盟国ごとに異なる現行の規制制度ならびに健康・安全・環境に関するEUの現行規則では、海底油田の掘削が […]

欧州委員会は13日、海底の油田・ガス田の掘削に関するEU共通ルールの導入を、来年前半に正式に提案する方針を明らかにした。加盟国ごとに異なる現行の規制制度ならびに健康・安全・環境に関するEUの現行規則では、海底油田の掘削が及ぼす危険に適切に対応できない可能性があるとの判断に基づくもので、認可制導入などを柱とする内容。検討中の提案内容を公表した欧州委のエッティンガー委員(エネルギー担当)は、事故発生時に石油会社が十分な補償を行えるようにするため、EU環境責任指令や廃棄物枠組み指令など既存の法律の「穴を埋める」必要性があると強調した。

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欧州委は、海底油田の掘削施設で発生した事故が域内の環境、経済、社会に与え得る損害は国境を超え、EU全体に広がるものだと指摘。原油掘削プラットフォームにおける装置の安全性、監督、保険、および課税などに関する域内統一規則の導入を求めた。明らかにされている具体的な提案内容は以下のとおり。

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◇認可制の導入――加盟各国は掘削事業を新規に認可する際、事業を申請した石油会社がEUの要件を満たしていることを確認しなければならない。石油会社は申請時、危機管理計画を明示するとともに、事故発生の際に生じ得る環境への悪影響に対して補償を行うための財政的手段を持っていることを証明しなくてはならない。

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◇監督――掘削施設は加盟各国の関連当局が監督する。監督に関する基準や内容については、独立した立場の専門家から評価を受けることとする。

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◇安全装置に関する基準――施設において使用される装置、とくに噴出防止装置は、最も厳格な安全基準を満たしたものでなくてはならない。

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◇損害賠償および事故対応――事故発生時、石油会社は沿岸部から200マイルまでの範囲において環境浄化を行ない、損害を賠償しなくてはならない(現行規則では12マイルまで)。現在、船舶によって発生した公害を取り締まる欧州海運安全機関(EMSA)が、石油掘削プラットフォームについても対応する。

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◇多国間協力――欧州委は、既存の国際協定に従うと同時に、新規の共通イニシアチブを導入する。

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提案によれば、海底油田の探査・掘削を行う石油会社には、保険加入などによって事故発生に向けた十分な賠償資金を確保することや、事故後の環境浄化などにかかるコストの少なくとも一部を負担するのに必要な準備金を用意することが求められる。また欧州委は、域内を本拠地とする多国籍の石油会社に対し、域外での事業についてもEU基準を適用させる方針とみられる。安全基準については、とくに今年4月に発生したメキシコ湾沖での英BPの掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」での事故の際、爆発の原因になったと指摘される噴出防止装置に関する基準の厳格化を訴えた。

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欧州委は今回、海底油田の新規開発の停止(モラトリアム)の提案は見送ったものの、加盟各国政府に対し、新規則が導入されるまでの間は新規事業を認可しないよう呼びかけている。モラトリアム提唱を断念したことについては、英国出身のアシュトン外交安全保障上級代表(EU外相)の意向が影響したものとみられる。スコットランド沖の北海の原油掘削事業は、同国経済に年間約60億ポンド(68億ユーロ)をもたらしている。海底油田が集中するスコットランドの第一党、スコットランド国民党がモラトリアムによる同地域経済への影響を懸念、掘削の新規許可を禁止する法的権限はEUにはないと反発しているほか、英国の石油業界ロビー団体「ガス・アンド・オイルUK」や国際石油天然ガス生産者協会もまた、同様の主張を展開している。

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EU域内には約900カ所の海底油田があり、うち486カ所が英国、181カ所がオランダの領海に集中している。また、イタリアとデンマークにもそれぞれ123カ所、61カ所があるほか、ブルガリア、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、ポーランド、ルーマニア、スペインにも操業中の沖合掘削施設がある。ディープウォーター・ホライズンほどの深海で操業する油田があるのはEU非加盟のノルウェー(水深1,300メートル)のみだが、域内各国もノルウェーの例に従い、さらなる深海での探査事業を計画中だ。英国ではシェトランド沖の水深1,600メートルの地点、フェロー諸島近くの水深1,100メートルの地点で探査が予定されているほか、ルーマニアでは黒海沖の水深1,000メートル地点での掘削事業が、すでに許可を得ている。

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