EUの独禁当局である欧州委の調査手法に対し、企業の間で反発が高まっている。ドイツ鉄道、スイスのセメント大手ホルシムなど計8社は、立ち入り調査の際に押収された書類などの返還を求め、欧州司法裁判所に相次いで提訴した。
\ドイツ鉄道は3月下旬、独占的立場を乱用しグループ外企業を不当に差別しているとしてEU競争法違反の疑いで欧州委の立ち入り調査を受けた。同社は、調査官が権限を越えた「過度に広範な」調査を行ったと主張。押収された証拠書類のコピーの返却を求めている。また、セメント会社間のカルテル疑惑では、立ち入り調査を受けたホルシム、セメックス、ハイデルベルクセメント、ブッジ・ユニセム、シュヴェンク・セメント、イタルモビリアーレの計6社が、提出を求められた証拠書類が多すぎることを不服として、返還を求め提訴している。ホルシムによると、欧州委はグループ会社15社について、過去10年間のすべての取引、輸出入、生産および市場に関するデータの提出を要求。この「度を越えた」要求に対応するため、「膨大な人件費と作業時間を費やした」という。このほか、電力ケーブルをめぐるカルテル疑惑では、仏ネクサンスと伊プリズミアンが、2009年の立ち入り調査で幹部職員のハードディスクがコピーされたことを不服として提訴しているが、第一審裁での審理の日程はまだ決まっていない。なお、欧州委は先月、2社に異議告知書を送付した。
\英法律事務所キング・アンド・スポルディングのスザンヌ・ラブ弁護士は、EU法は欧州委に企業に対し情報提供を求め、事前通告なしに立ち入り調査を行う「極めて強力は権限」を認めているが、「こうした権限にも法的な限界はある」と指摘する。競争法違反に対する欧州委の調査手続をめぐっては、手続きの不透明さや制裁金が高額であることなどに批判の声が挙がっている。欧州委のアルムニア委員(競争政策担当)は5月、「企業の公正な取扱いを確保する」として、聴聞官を調査の初期段階から関与させるなどの調査手続の改革を提案した。
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