2011/10/24

総合 –EUウオッチャー

EU首脳会議が銀行資本増強で大筋合意、EFSF拡充などは持ち越し

この記事の要約

EUは23日にブリュッセルで開いた特別首脳会議で、ギリシャを震源地とするユーロ圏の信用不安問題の解消に必要な包括的対策について協議し、銀行の資本増強策について大筋合意した。ただ、他の焦点となっている「欧州金融安定基金(E […]

EUは23日にブリュッセルで開いた特別首脳会議で、ギリシャを震源地とするユーロ圏の信用不安問題の解消に必要な包括的対策について協議し、銀行の資本増強策について大筋合意した。ただ、他の焦点となっている「欧州金融安定基金(EFSF)」の拡充、ギリシャへの第2次支援をめぐる民間負担については、なお調整が必要で、結論を26日の首脳会議に持ち越した。

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包括的対策は、ギリシャに端を発した信用不安を封じ込め、イタリア、スペインなど財政が悪化している大国に波及しないようにすると同時に、債務危機が金融危機に発展するのを防ぐのが目的。EU史上最大といわれる危機に際して、これまで場当たり的な対応に終始してきたEUが一致団結して、市場の信頼を取り戻すことができるようなしっかりとした対策をまとめることができるかに国際社会の注目が集まっている。

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対策の3本柱は、ユーロ圏の財政悪化国に緊急金融支援を行う総額4,400億ユーロのEFSFの機能拡充、デフォルト(債務不履行)の危機に直面しているギリシャへの第2次支援、域内銀行の資本増強。

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EFSFの拡充では、財政危機に陥った国の国債を流通市場で買い取ることができるようにするといった機能強化に加え、融資枠の拡大が焦点。これまでに支援を決めたギリシャ、アイルランド、ポルトガルの3カ国だけなら対応できるが、スペイン、イタリアが支援要請に追い込まれた場合に不十分なためで、十分な資金力を確保して市場の不安を鎮める狙いがある。

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これに関しては、フランスがEFSFを銀行化し、欧州中央銀行(ECB)から無制限で資金供給を受ける案を提唱したが、ドイツとECBが反対し、調整が難航。首脳会議では銀行化は候補から外され、ファンロンパイ大統領(欧州理事会常任議長)によると◇国債を保有する投資家への債務保証◇中国などEU域外の国からの拠出を受け入れる新基金の創設――という2つの案が基金規模拡大策として浮上している。両案を組み合わせた形も検討されているという。26日の再協議で拡充規模や手法の詳細を詰める。

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ギリシャへの第2次支援は、昨年5月にEUと国際通貨基金(IMF)が総額1,100億ユーロの支援枠を設けたが、依然としてギリシャ国債の利回り上昇が続き、国債発行による資金調達が不可能で、さらに景気悪化による税収減で財政が一段と悪化することが避けられないことから、ユーロ圏が7月の首脳会議で打ち出したもの。EUと国際通貨基金(IMF)が1,090億ユーロを追加融資するほか、ギリシャ国債を保有する民間金融機関に債務棒引きを迫る。

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焦点となっているのは棒引き率。先の合意では、金融機関などが持つ国債をギリシャ政府が割引価格で買い取るといった形で債務残高の21%を棒引きすることになっていた。しかし、その後の状況悪化を受けて、首脳会議に先立って開かれたEU、ユーロ圏の財務相会合では、民間負担率を50~60%まで引き上げる方向で合意した。ただ、民間に大きな負担を強いると金融危機を引き起こす恐れがあり、さじ加減が難しいところで、26日に詰めの協議を行う。

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銀行の自己資本比率、来年半ばに9%へ

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唯一、具体的な進展があったのが域内銀行の資本増強。これは保有するギリシャ国債の評価損で資本不足に陥る銀行が増えていることを受けたもので、首脳会議では中核的自己資本比率を来年6月までに9%まで引き上げることで合意した。EUが今年実施したストレステスト(健全性審査)で合格基準となっていた5~6%を大きく上回る水準だ。増資規模は1,000~1,100億ユーロとなる見通し。各銀行は独自に資金を調達し、それが無理な場合は国家が支援する。それでも資本不足の場合は、最後の手段としてEFSFに融資を要請するという仕組みが検討されている。

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このほか首脳会議では、財政危機再発防止に向けてEUの基本条約であるリスボン条約の改正も辞さないことで一致。ドイツは、財政規律違反国を欧州司法裁判所で裁くことができるようにする改定などを提案している。また、ファンロンパイ大統領をユーロ圏首脳会議の常設議長とすることでも合意した。

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今回の首脳会議は当初、17~18日に開催される予定だったが、EFSF拡充などをめぐる加盟国間の溝が埋まらず、ファンロンパイ大統領が23日への延期を決定。さらに、なお調整が難航し、1日だけでは不十分なことから、20日に26日にも開催することが決まった。

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今回の首脳会議で効果的な包括対策がまとまらなければ、国際社会や市場が落胆し、一気に信用不安が急加速するのは避けられない見通し。そればかりか、EUの政策運営能力そのものが問われかねない。EUは過去最大の正念場を迎えている。

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